第4話 ジョンストン環礁沖の血戦

 敵艦隊を痛打した第二分隊は、辛うじてながら統率の取れた艦隊を維持していた。明らかに量でまさるメビウス艦隊に、進路方向と右舷方向を塞がれ包囲された第二分隊は、それを食い破ることにこそ成功すれども、そのダメージは大きかった。


 「集計した損害を報告します。戦艦一隻中破、巡洋艦二隻撃沈、一隻中破、駆逐艦七隻撃沈、四隻中破です」

 「…、大損害ね…」


 第6艦隊の救援には成功し、現在彼らは第二分隊と合流している。

 しかし、そのために負った損害は、本来の艦隊規模の四分の一に及び、再編成しなければならないようなレベルだった。


 「それで、第三分隊と通信は?」

 「通信可能です、出しますか?」


 出して頂戴、と言う美麻。

 直ぐに、あいつが出てくる。


 「単刀直入に聞く、損害及び第6艦隊救援の可否は?」

 「損害は戦艦一隻、巡洋艦三隻、駆逐艦十一隻戦闘不能、第6艦隊の救援には成功」


 了解、という事務的な連絡。


 「第6艦隊は近隣のメビウス艦隊駐留拠点を把握しつつ前進。その護衛及びジョンストン環礁への攻撃を要請する」

 「あんたねえっ!」

 「要請の可否の回答を求める」


 ふざけんな、の声を辛うじて自制。


 「…っ、りょう、かい…」


 通信がすぐに切られる。


 「ふざけんなァ!!」


 美麻は、そう叫んだ。

 第6艦隊を見捨てようとした挙げ句、生きていたからこき使おうなど、なんと無視いい話か!


 理性では、生き残ったのだからいいだろうというのは理解できるし、軍人としても尊敬しよう。使える駒は使うべきだ。

 だが、どうして、人間として納得できようか!


 「はァ…。 麾下の艦隊に告ぐ、ジョンストン環礁へ転進する」


 くそったれ、と思いつつ、美麻はそう命じた。














 「最悪、かな…」


 愁は、人間として生きることは諦めるべきかもしれないと考えつつあった。

 性格が若干歪んでいるのは自覚しているし、「二冠の魔女」の代償として背負った罪は償いきれるものではない。

 味方を見捨てた挙げ句、魔女の称号を得るなど、本来してはいけないことだということは自覚している。


 しかし、そうするしかなかった。


 そう言えば、少しは楽になるだろうか?

 必要の神は、全ての神に優越する。必要だから、どうしてもしなければならなかったから。

 そんなことで、軍は犠牲を感受する。


 第6艦隊を見捨てるのは、合理的には正しい判断だし、実際救わなければ偵察力は大きく損なわれるが、殆ど戦力が温存された状態の第二分隊と合流できただろう。

 情勢が変わり、第6艦隊があったほうが良かったから使う、ただそれだけのこと。だが、それが人間として許されるのかどうかは別の話だ。


 いっそのこと、人間としてではなく、戦闘機械として生きれたならば。


 そう思うときが、最近多い。

 もう、人格が限界を迎えているのかもしれない。あるいは、もう数年前のあの日から捨て払ったはずの良心が、最後の断末魔を上げているのかもしれない。

 そんなこと、どうでもいいが。


 もう、どうだっていい。


 自分の心なんて、どうにでもなってしまえ。


 「空襲隊よりの報告総計」


 桜蘭からその声を聞いた愁は、頭を切り替える。


 「敵艦隊に対して与えた損害、戦艦二隻撃沈、一隻撃破、重巡洋艦級六隻撃沈、一隻撃破、軽巡洋艦級二隻撃沈、駆逐艦七隻撃沈。その他、砲台六基を破壊」


 桜蘭の報告からすると、大戦果だった。

 ありったけの大型対艦ミサイルを放った結果は、戦艦、巡洋艦などの主力艦クラスのかなりを撃滅するというもの。

 手持ちの戦力からすれば、かなりのものだった。


 「敵艦隊の駐留戦力は?」

 「一個艦隊クラスかと」


 一個艦隊となると、16隻の戦艦からなる大型の艦隊だ。今回集結したメビウス艦隊は9個艦隊規模とその他空母艦隊など。相当な艦数だが、それでもその一翼をほぼ打ち砕いたのは大きな成果だ。


 「写真はあるか?」


 空襲部隊は、ついでに写真を撮ってくるように命じていた。


 「ええ、ここに」

 「もらおう…」


 写真をもらった愁は、その表情を変えた。


 「こ、これは…」


 そこに見えたのは、ありえないほどの完全防衛拠点だった。

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