第45話

 村田先生たちが車で帰る音と同時に、幸助おじさんが玄関先に仁王立ちした。何かしら? 幸助おじさんの背中からオーラのようなものが発せられていた。

 殺気っていうのかな?

 確か幸助おじさんは、隣町の道場で師範をする前に、あちこちで武者修行をしていた。その時に免許皆伝という何かを貰ったと、遥か昔に聞いていたんだった。

 二部木さんや三部木さん。四部木さんに五部木さんと六部木さん。後は、一番初めに生まれた一部木? さんもきっと、今頃は何かよくないことを考えているはず。三部木さんたちの両親はどうなのだろう?

 こんな時だから幸助おじさんがいてくれて良かった。

「おじいちゃん。亜由美は?」

 おじいちゃんは首を傾げて、

「はて、昼間から。二階に上がったまま降りてこないな」

「え!?」

 ぼくは嫌な予感を覚えて、二階へ駆けていく。幸助おじさんも物凄い無駄のない動作でぼくの後を追った。

 亜由美の部屋のドアを勢いよく開けると、机で本を読んでいた亜由美がこちらを睨んだ。

 ぼくはホッとして、亜由美に謝った。

 事件は街全体っていうけど、何が起きるのかとんとわからない。

 幸助おじさんが、ホッと安心の息を吐いて一階に降りて行った。

 ぼくはこの時に、すごく大事なことを思い出した。今までの悪夢のせいでよく覚えていなかったけれど、急に浮上してくる疑問がある。

 それは遥か昔の疑問だけど、数日前なんだね。

「亜由美。数日前に裏の畑で、ぼくたちが遊んでいた時。誰かぼくたちをずっと見てなかった? 何か見ていたら教えてほしいんだ。ほんの小さいことでもいいんだ」

 亜由美はめんどくさそうに、本を置いて、白いルーズリーフの紙を取り出した。

 そのルーズリーフにサラサラと書き出した。


 ぼくは勢いでルーズリーフを覗くと、綺麗な字で「田中さん」と書いてあった。

「じゃあ、三部木さんたちが犯人か……」

 亜由美は首を振り、めんどくさそうに、またペンを持ち出し、「もう一人の田中さんよ」と書いた……。


 濁って。どす黒い夢を見ていたぼくと、起き出した父さんと母さんは、おじいちゃんと幸助おじさんの説得で、この街を早めに出ることにした。

 父さんと母さんは記憶が曖昧だったようで、全ては知らないけど、ある程度は知っているようだ。この街のことを。

「もう、怖いったらありゃしない。歩も酷い怪我! こんな街出てってやる!! もうたくさんよー!!」

 母さんがヒステリックに叫び出し、父さんは黙って頷いては、肩をいきり立たせながらドスドスと廊下を歩き回っていた。

 しばらくして、父さんと母さんは、早速準備に取り掛かった。

 隣町にもともと、引っ越すはずのぼくたちは、夜が明けたらすぐに出発となり、簡単な荷造りをしただけでよかった。幸助おじさんは今でも玄関先に立っていた。

 誰も幸助おじさんには、何も言わない。

 だって、何も言えないともいえるんだ。そんなオーラが発せられていて、ぼくは幸助おじさんが頼もしくもあり、そしてすごく怖かった。

 一時間で大体の荷造りを終えると、父さんがすぐに電話をして、レンタカー会社から運転手つきで大型トラックを二台寄越したみたいだ。電話越しの会話を聞いたから間違いない。

 待つこと数十分。

 幸助おじさんが、まず先に玄関から駆けだして、トラックの運転手たちを順に調べるように見ながら、それが終わると、ぼくたちに合図した。

 家財は全てではなくて、後で引っ越し屋さんに頼むのだそうだ。

 そういえば、裏の畑の方に駐車がへたくそな黄色い軽自動車がある。

 どこか懐かしい感じがするけど、これで、裏の畑ともお別れになった。


 あの、バラバラにされても生きている子供たちのために、必死で捜査していたけど、やっぱり、解決は困難だったのかな?

 まだ、真相もあるみたいだし。

 もう一人の田中さん。

 あの、のっぺりとした丸顔の田中さんが犯人だった。

 何故かはわからない。

 もうこの町とはお別れだ。

 事件とバラバラにされても生きている子供たちと一緒に……。


 もう、この街には戻らないだろう。

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