第27話
殺人未遂罪が着せられれば、羽良野先生の脅威がなくなり、この事件の調査が楽になる。
ぼくはリュックにそれらを入れて、時間まで読書をしていた。
階下から母さんの呼ぶ声が聞こえた。
時計を見ると、午後の三時だった。
亜由美は一日中。部屋にいた。
ぼくはリュックを持って、キッチンへ向かった。
「そのリュックどうするの?」
丸っこい母さんはお茶の準備をしながら、キッチンで聞いてきた。
「なんでもないよ。羽良野先生が帰ったら篠原君と藤堂君と遊ぶんだ」
玄関のチャイムが鳴って、母さんが出迎えた。羽良野先生は玄関越しにしゃちほこばって挨拶をした。
「歩君。勉強している?」
優しい顔をした羽良野先生はニッコリと聞いてきたが、ぼくも涼しい顔で大きく頷いた。
「さっさ、上がってくださいな。羽良野先生。お茶を今配りますね」
「あ、お構いなく」
羽良野先生はぼくの案内でリビングに行くと、一変して恐ろしい形相でギロッとぼくの顔を睨んだ。
ぼくは心臓がバクバクしたけど、涼しい顔でニッコリとした笑顔を向けた。
テーブルに二人で落ち着くと、羽良野先生はまたニッコリとしていた。
母さんが盆を持って来た。
「歩くんは頭がいいんで、私は教師として安心しています」
羽良野先生は控えめだが、丁寧に頭を下げて静かにいった。
「まあ。そうですか。きっと、おじいちゃん譲りですわね。あっ! いっけない!」
母さんは急に強張った顔をして、本当のことをお世辞抜きで言ってしまった。
なんだかんだいって、母さんも父さんもぼくのことを自慢に思ってくれているんだと思うんだ。けど、今では不可解な事件のせいで心配の方が強くてなかなか普通の話がしにくいように思える。
きっと、誰も何が起きているのか解らないはず。
二人とも学校で起きた用務員さんの死亡事件のことは一言も言わなかった。
それどころか、世間話に花を咲かせた。
やっぱり……不安なんだ。……母さん。
羽良野先生は怪物だけど、母さんも周囲の人もやっぱり不安なんだ。
そうだ。
用務員のおじさんを殺害したのは、大原先生なのかも。
でも、なんのために?
あ! 学校の花壇に羽良野先生が落ちて来たのを見られたからだ。
用務員のおじさんがいつも手入れをしているから、多分その時間帯に三階から落ちて来た羽良野先生を目撃したんだ。
亜由美も目撃したけど、気が付かれなかったんだ。
はて、確かあの日は体育館に他の先生たちと一緒に、羽良野先生も普通に帰って来た。
一体。何故なのかな?
「それで、歩君のことで少しお話が……。最近、体育館で大事な集会の時にどこかへ行ったり、昨日、隣町の利六町に出掛けたそうで……。裏の畑から人形の手足が出てきたりと、何か一人で悩み事を抱えているのなら、教師として真摯に相談をしてやりたいのです」
来た!
ぼくが考え事をしていると、いつの間にか母さんと羽良野先生の会話がぼくの行動へと傾いてきた。
でも、なんでぼくが昨日。利六町へ行ったのが羽良野先生は解ったのかな?
三部木さんしか知らないはず?
「え! 昨日ですか? 友達と遊んでいたはずですが? あ、多分、来月引っ越すんですが、引っ越し先が利六町なので。友達と一緒に見に行ったのでしょうね……。寂しくなるわね……ね、歩?」
母さんはぼくの行動や気持ちをプラスに考えてくれた。
「うん!」
良い子の体裁をして答えたが、羽良野先生の顔が一瞬醜く歪んだ。
恐らく来月にぼくが引っ越すのが都合が悪いのだろう。
羽良野先生と母さんは明るい世間話になりだした。
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