赤鶴

夜の闇の中、商売柄もあってあまりに眠れぬもんだから、

少しだけ蝋燭をつけて、また吸い始めた煙草に火をつける。


そういえばこの可愛い折り紙の鶴も早く燃やしてしまわなければならない。


禿にやれば喜びそうだと思ったけれども、やはりどうしても手放せなかった。


あんまりかわいいもんだから、ちょっと意地悪がしてみたくなって、

掌の上で煙管で突っついて転がしてやった。


赤い鶴の内側になんだかちょっとだけ黒色が見えた気がした。


何かあるのかと気になってちょっと可哀想だが紙を解いていく。


内側に何か書いてあるようだ。


火を近づけて照らして見ると、




「あなたが好きだ」




と書いてある。


手が震える。


こんな単純な言葉なのに、どんな睦言より恋文より胸が苦しくなった。


若い彼の気持ちがその一言に青臭く溢れてくるようだ。


まさかまさか、他の男の元へ行く前夜にこんな気持ちになるなんて。


太夫は小さく声を上げてカラカラと笑って、鶴をそっと火にくべた。


少しずつ灰になる鶴に気落ちした心もとても晴れやかになる。


鼻が少しつまって目元がちょびっと暖かい。


冷えるはずの頬も鶴のおかげで熱くて痒い。




何を自分は迷っていたのか、全て思い通りにならぬなら最期位自由に生きてやろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る