中 ── やはりオペレーターが必要だ





 翌日、今後の14日間に予定されていた第3層でのミッションの全てが順延される旨、コミッションから通知があった。

 この間、当該の居住区画について大規模な〝メンテナンス補修・保全〟が行われる、とのことだ。


 第3層では俺たちが〝ベヒモス〟との交戦でLGBレーザー誘導爆弾を使ったし、オートマトンの大出力エキシマレーザーがあちこちに放たれている。他にも、これまでこの層の全域で行われたミッションのことを考えれば、相当のダメージが〝大地〟に蓄積しているとしておかしくない。


 〝MA監視機構〟とそこから離脱した〝AMA反MAの側〟のAIは、このような状況下でも〝この世界世代宇宙船〟の「設備」に対する無制限の管理責任を放棄はしていない。居住区画を始めとする設備は定期的にメンテナンスがなされ、緊急性が認められれば、今回のようにメンテナンス補修・保全が優先されミッションが停止される。設備に対するメンテナンスと同時に、戦闘領域内に遺棄された武器・弾薬、不発弾の類いも回収されるハズだ。

 …──こういうことはよくあることで、古典SFの描く〝管理された戦争〟がにはある……。


 とまれ、俺たちも予定していたミッションが流れてしまうことになり、次のミッションを探すことはもちろん、手配していた機材のキャンセル手続きや予定していたゲストメンバーへの補償をせねばならなくなった。

 新米のリーダーにとっては、ぜんぜん骨休みに繋がらない……。

 カーリーの部屋を訪ねる時間をつくるのにも苦労してるのが実情だ。




 さて、そういう時間を過ごす中でも、〝収穫〟らしきものはあった。

 3つ目のミッションから〝常連〟として前衛ポイントマンに固定されたメンバーがいる。──〝ブッシュマン〟キングスリーだ。

 前衛──とくに〝斥候〟としての能力は折り紙付き、無茶なことはせず戦理に適い機転の利く男で、隠密行動を得意としているところなど、俺やリオンとの相性も良い。

 俺たちよりも少しばかり(10歳程度?)年長だったが、万事に控え目で、ミッションの内でも外でも〝無駄口〟を叩かない。その分はリオンよりも好ましいかもしれなかった。

 ……ああ、少し言い過ぎた。

 それはさて置き、キングスリーはあの〝ベヒモス〟との交戦でターンブルのパーティーが事実上の〝全滅〟となった後、フリーランスとなっていた。俺たちと違い、ベックルズとパーティーを再建する道は選ばなかったようだ。

 ベックルズはあの戦闘のレポート報告に『意見書』を提出すると、ミッションに出ていないらしい。



 そんな訳で、現在の〝パーティー〟は前衛に俺とキングスリー、後衛に狙撃手のリオン。それにミッション毎にゲストを招き、コンコード乗合兵員車で戦闘領域まで通っている。


 カウリーのパーティーでは徹底したリサーチに基づいた〝待ち伏せ〟で鳴らしたものだが、俺の隊は目下のところフットワーク身軽さを活かした〝レンジャー遊撃任務〟で名が売れ始めている。

 B・C級の精鋭による〝1ミッションパーティー〟…──それは戦場では使い勝手が良く、偵察・斥候・観測から強襲・狙撃までをこなす〝何でも屋〟だ。

 4つ目のミッションでは背後に〝オーガー〟が出現して味方が総崩れとなる中、俺たちがコンコードまでの退路を切り拓いた上に、足止めをして8割方の後退の時間を稼いだ。

 おかげで〝狩り〟、つまりキルゾーンの構築のために持ち込んだ機材の一切──高い運搬料を払ったんだ…──を遺棄する羽目になって、結局、収支はトントンだった……。


 このミッションでは、やはり自前のコネストーガ後方支援車が必要だ、との思いを新たにさせられた。

 それと〝もう2つ〟ほど、痛感させられたことがある。

 C4I情報処理システムと、専任のオペレーターだ。


 コネストーガの情報支援のない俺たちは、フルスペックのC4Iを利用できない。だから俺たちは〝簡易型〟のC4I基地局ユニットをレンタルで持ち込んで対応していた。これはベックルズが使っていた〝ビィハイヴ養蜂箱〟と同系統のシステムユニットで、運搬用カートで牽引し現地に設置し、フルスペックのものには及ばぬまでもデータリンクのハブ結節点を提供する。


 ──これを回収できずに遺棄して捨ててきたのは痛かった。〝バカ高い〟代償を請求されることになった……。


 まあ、それは置き……、

 これを使ってみてわかったのは、やはり専任のオペレーターが必要だという事だった。

 そもそもプロテクトギアで戦場を駆けながら刻々と移り行く戦況を反映する〝仮想戦場〟に気を配り続けることは不可能事で、膨大な情報を整理し、的確なタイミングを計ってくれるオペレーターがいなければ、C4Iは極めて限定的な機能しか提供してくれない。

 …──それが俺の出した結論だった。

 ダニーの〝パーティーへの貢献〟を過小評価していた自分にも気付かされた。


 ……キングスリーには異論もあるようだったが、俺はそれを口にさせなかった。誰が何と言おうと、ベックルズが異常なんだ…──。

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