第7話 徘徊型の中ボス

名前:天水 ソラ

Lv:6 ランク:E

SP:5→0 職業:初級荷物持ち→中級荷物持ち

STR:5→9 VIT:6

AGI:11 MAG:0 SEN:7→8

スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】

装備(効果):――


 4ポイントを力に、1ポイントを感覚に割り振った。

 力を上げたのは単純に殲滅力アップのためだ。

 感覚を上げたのは、ソロで戦うために必要だからだ。


「バックアタックは一番拙いからね」


 感覚を上げれば、魔物の気配をより素早く、鋭敏にキャッチ出来るようになると踏んだ。

 そのソラの予想は、当たっていた。


「……ポイントを振ると、かなり感覚が変わる」


 ソラは手を握る。五の力で握っても、これまでの十の力くらいは出ているように感じられる。

 また、感覚も先ほどより鋭敏になっている気がする。

 これまでぼんやりしていた小さな物音が、鮮明に聞こえるようになった。


 ――背後から忍び寄る足音すらも。


「……さて」


 そう声を上げ、ソラは軽く体を動かした。


「Eランクに上がった僕が、どこまで通用するか……」


 拳を握りしめながら、ソラは後ろを振り返る。

 そこには、おびただしい数の丸腰ゴブリンがいた。

 その一番奥に、一際体の大きなゴブリンが佇んでいた。


 徘徊型の中ボス――ホブゴブリンだ。


 この魔物の群れを前にしても、ソラは逃げようとはしなかった。

 今までのソラなら、真っ先に逃げていたはずだ。


 だが、いまは立ち向かうことしか考えていない。

 初めから、逃げ腰だったらなにも変えられない。


(知りたい)


 ステータスボードが、どう変化していくのかを。


(見てみたい)


 自分が変わった先にある光景を。


(強くなりたい)


 暴行を受けて大切な長剣を奪われた、その時の光景が脳裡をよぎる。


(強くなりたい!)


「うおぉぉぉお!!」


 獣のような雄叫びを上げ、ソラは地面を踏み込んだ。

 瞬間、体が勢いよく飛び出した。


(――ッ!?)


 その速度に、ソラは驚いた。

 まるで弾丸にでもなった気分だった。


 AGIにポイントは振っていない。

 にも拘わらず、敏捷性がワンランク上がっていた。


(STRのおかげか)


 STRが上がったことで、体を押し出す力が上昇――相対的に敏捷性が上がったのだった。


 その勢いのまま、ソラは拳を振り抜いた。


 ――グシャッ!!


 拳を食らったゴブリンの顔面が半分以上陥没した。

 その手応えに、ソラは目を見開いた。


(すごい……)


 殴ったゴブリンが地面に倒れ込み、ダンジョンに吞まれていく。


 これまでなら、相手を殴ってもノックバックが良いところだった。

 それが一撃で絶命。

 にわかには信じがたい結果だ。

 まるで自分の力ではないみたいだ。


 本来ならば、SPは自動的に振り分けられていたはずだ。その場合、(これまでの上がり方から)レベル1アップごとにSTRが1上昇だ。


 それを今回、ソラはSPを4つSTRに割り振った。

 つまりレベル4つ分上昇したことになる。


(これが、僕の力……)


 想像以上の変化に動揺したが、すぐに気持ちを引き締める。

 目の前にはまだ、大勢のゴブリン、そしてホブゴブリンが控えている。


 初めは、太刀打ち出来なかったら逃げようと思っていた。


(けど……)


 気が変わった。

 ゾクゾクっと、背筋が震える。


(行ける!)


 ソラは拳を硬く握り、最も近いゴブリンを殴る。

 即座にその場を離脱。

 遅れて複数のゴブリンの手が空を切った。


 もしソラが足を止めていれば、今頃ゴブリンに捕縛されてかみ殺されていたに違いない。


(すごい……。Fランだった僕が、こんなに大勢のゴブリンと対等に戦えてる!)


 僅かでも均衡が崩れれば、アッという間に絶命する。

 そんな危うい状況で、ソラは笑った。


 最弱の自分が、強くなれなかった自分が、決して立ち向かえないはずの相手と戦えている。

 それくらい、強くなれたことが嬉しかった。


(もっと、もっと強くなりたい!)


 ソラは続けざまにゴブリンを殴り倒す。


〉〉レベルアップしました


 囲まれそうな気配を感じ、バックステップ。

 襲いかかるゴブリンを、敏捷性を活かして回避する。

 ここのゴブリンは鈍い。

 囲まれさえしなければ、絶対に捕まらない。


「ハァ……ハァ……」


 注意深く周囲を観察。

 こちらから攻めて出たい。

 逸る気持ちをぐっと堪える。

 群れから突出したゴブリンだけを狙って倒していく。


〉〉レベルアップしました


 力が上がったためか、ゴブリンを殴る拳が痛い。

 自分の力に防御が追いついていないのだ。


 隙を見てステータスボードを表示。

(おっ、レベルが上がってる!)


 即座にSPを振り分ける。


名前:天水 ソラ

Lv:6→8 ランク:E

SP:10→0 職業:中級荷物持ち

STR:9→11 VIT:6→11

AGI:11→13 MAG:0 SEN:7→8

アビリティ:【成長加速】+

スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】

装備(効果):――


 ゴブリンから感じた脅威が、突然下がった。

 ステータスが伸びたことで、こちらが優位に立ったからか。


 全体的に能力が伸びたことで、戦闘に余裕が生まれた。

 呼吸を整える時間も増えた。

 先ほどまで上がっていた息が、いまはもう落ち着いている。


 そこからソラは、集中力を切らさず、慎重にゴブリンを倒していく。


〉〉レベルアップしました


(あれは……いつまで見物してるんだ?)


 初めは三十を超えていた群が、いまでは十体を切っている。

 だが、ホブゴブリンは後ろに控えたまま動かない。


 群れは押されているのに動かないなんて、不気味である。


(こっちの隙を狙ってるのか?)


 ソラはなるべくホブゴブリンを視界から外さないように戦った。


 ゴブリンが残り五体になった時だった。

 ホブゴブリンがいよいよ動いた。


「――ッ!」

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