第2話

 校舎内は殺風景なものだった。


使われなくなって随分と時間が立っていることを埃やいたるとろこにある蜘蛛の巣が物語っている。


そんないかにもなにか出そうに雰囲気にもかかわらずに真実空は相変わらずヘッドフォンから流れる曲を口づさみながら、軽い足取りで先へと進んでいく。


「アノー。真実空サン。怖クアリマセンカ?」


 その言葉に真実空はキョトンとした顔をサリノに向ける。


「怖いわけないじゃん。むしろ、ワクワクじゃねか。さてどんな妖怪とであうかなあ」


真実空は浮かれたように歩き出す。


その様子を見ながら安心すべきかどうかサリノにはわからなかった。


とりあえず彼の後ほついていくしかない。


真実空はふいに足をとめた。彼の視線の先にはトイレがある。


「ドウシマシタ?」


「うーん。定番ってやつだね。定番」


そういいながら、彼は女子トイレの扉を開いた。サリノが慌てて「That's the women's toilet!《それは女子トイレです》」と英語で叫んだ。


「ノーノ―ノンブログレム」


真実空は人差し指をさして揺らしながら、片目をつぶって見せた。


「ここは、廃校だよ。別なトイレしにきたわけじゃない。サリノさんも感じないか? サリノさんも霊感あるだろう?」


そう言われたサリノはトイレのほうを集中してみる。すると確かに感じる。霊力がトイレのほうから流れ出ており、かすかなすすり泣きさえも聞こえてきた。


「ghost?」


「うん。ゴーストだろうね。でも、幽霊とは違うによ。妖怪」


そういいながら、女子トイレを開く。すると、泣き声がはさっきりと聞こえてきた。女子トイレの個室の扉は全部開いている。手前から四番目から泣き声が聞こえてきたのだ。


真実空はためらいもなく四番目の個室を覗きこむ。


すると、そこには和装をしたおかっぱ頭の女の子がしゃがんで泣いている姿があった。


「どうしたんだい? なにかあったのか?」


真実空は優しく話しかけると、女の子がこちらを向いた。


「怖いの」


「怖い?」


「出れないの」


「出れない?」



彼女の言葉に対して真実空はオウム返しをする。


「ここはなくなる。だから、私たちもでなきゃならないの。出て新しいお家にいくの。でもね。あれが邪魔して出れないの」


「あれというのは?」



「あれよ。あれ。鬼なの。鬼がくるの」


その瞬間少女の眼が大きく見開いた。


「きゃあああああ」


少女の顔が青ざめ腰を抜かした状態で天井を見ている。


「真実空さん」


 サリノの声でようやく真実空は妖気に気づいて天井を見る。


すると天井から真実空よりも大きな顔をした巨大カメレオンがぬるりと現れたではないか。


「いやああああああ」


 少女が悲鳴を挙げねと同時に巨大トカゲが少女めがけて落ちてきた。


真実空は咄嗟に少女の腕を取ると強引にトイレから出した。


そのまま巨大カメレオンが和式トイレの上に転がる。すぐに起き上がると真実空たちまほうを見る。和装の少女は怯えながら、真実空のしがみつきながら巨大カメレオンを見ている。


 全身も大きい。

  

 おそらく170は超えているだろう体系でその双方の眼は渦のような文様が見えている。それに頭には一本の角。


 漂う妖気。


それらはあきらかに真実空の業界では『鬼』とよばれる存在だった。


カメレオンは全身をこちらへと向けると、舌を真実空に向かって出してくる。


真実空たちが咄嗟に避けると長く伸びた舌が壁を貫き穴をあけてしまった。トイレのすぐ隣にある部屋ん゛丸見えとなる。


「サリノさん。逃げるよ」


真実空は女の子を逃げり締めたままトイレを飛び出す。


「エ?」


サリノも慌ててそれに従う。


 すると、カメレオンが真実空たちを追いかけてくる。



「真実空サン。戦ワナイノデスカ?」


「トイレで戦うのは俺の戦い方に反するんだよ。あそこじゃ戦いにくいだろう?」


「確カニ」


その言葉にセリノは納得する。


なにせ彼の戦い方はあんな狭い場所にはまったく合わないものだからだ。とにかく。広い場所に誘わないと彼の得意とする戦い方にならない。


まあ、やり方によつてはトイレのような狭い場所でもやれなくはないのだが、彼にはその意志はない。とにかく派手なのだ。


隠密稼業が務まらない男だとサリノは思っている。


「よし。ここならいいだろう」


彼らのたどり着いたのは、校内の中で開けている空間だった。体育館でもない。教室一個分ほどの広さのあるホールに真実空たちは立ち止まり、振り返る。


「君は隠れれていなさい」


そう言われた少女はその空間の壁際にあった古びた椅子の後ろに隠れる。


 それと同時に巨大カメレオンが追い付いてきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る