第8話 『温泉』でやってはいけない男の習慣

 なんとか花を手に入れた僕たちは、急いで病気の子供のところへ。


 幸いジェードロッジは馬で5分ぐらいのところで、ほんと助かった。


 え? あれからどうなったかって?


 知りたいのはウィンのことでしょ?


 うん、まぁ、ねぇ。


「まさかこんなところに温泉があるなんてな! 聞いてみるもんだぜ! なぁ、フィル!」


「そうだね。酋長しゅうちょう、いい人だったね」


 いきさつを話したら、なんと温泉の場所を教えてくれたんだ。


 なんでもジェードロッジに住むナンティ・ヌー族だけが知る穴場だそう。


「ところであいつらはどうした?」


「まだ湯着バスドレスを着るのに手間取っているんじゃないかぁ。ほら、ウィンなんてまともにくらっちゃったから、そうだ! キキおいで、洗ってあげる」


「クーン!」


 キキの体をきれいにしてあげて、レヴィンといっしょに温まっているとようやく二人が入ってきた。


「うぅ……まだべとべとするよ~」


「もうしょうがないわね。ウィンこっち来なさい。洗ってあげるから」


 なんて言いながらね。


「なぁ、ウィン、なんか物足りなくはねぇ?」


「なんかって何が?」


「そうだ。手をこう、胸と腰を隠すように、すると……うへへへ、フィル、お前もやってみろ」


 何をやっているかと思えば。


 ほんとどうしようもないスケベだな。この人は。


「や、やだよ。バレたらぜぇったい二人にめちゃくちゃ怒られるもん」


「だいじょうぶだって、こっちが何やってるかなんてわかりゃしねぇよ。いいからやってみろって」


 しつこいので、仕方なくやってみた。


「う……!」


「な! 隠れているだけあって、余計いいだろ?」


 だめだ鼻血出そう……。


 あ、やば! ウィンと目が合った。


 こっち向かってくる!


 もしかして気付かれた!?


「ねぇ? さっき何をやっていたの?」


「ううん! べ、べつになにも! ね、アニキ?」


「お、おう、そうだぞ。オレたちはに温泉を楽しんでいただけだぜ」


「なんかあやしい。たしかアタシとリリー姉ぇに……手をこうやって……あ……」


 や、やばい、ま、まずい。


 なんか変な汗が出てくる!


「フィ~ル~レヴィンにぃ~」


 青筋をうかべ、ウィンはまるでゴミを見るような目で。


 ゆっくりと親指をつきおろして――。







 さて、温泉でを働いた僕らが、その後どうなったかといえば――


 WAU! WAU! WAFF! GAZING!!!


「わっ! わっ! あ、あぶな……うぅぅぅ、どうしてこんな目に……」


「だ、だいじょうぶか! フィル! 朝までしのげば、こいつらはいなくなる! がんばれ!」


 バンデッドウルフの群れがいる森の中につるされること、もうかれこれ1時間。


 ヴィンいわく、これでも今日の『オシオキ』は序の口だそう。


 いったい今までどんなことをやらかしたんだ。


「なぁ、フィル。お前……ウィンのことどう思っている?」


「え、なんだよ! 急に!」


 いまにも食われるかもしれないってのになんなんだ。


 べ、べべ、別に、き、気になっているとか、そ、そんなことは、ないよ?


 ほ、ほんとうだよ?


「聞いてたんだろ? オレたちが何で旅をしているのか」


「……え、あ、いや、僕は」


 なんだそっちか……びっくりした。


 そう、それは〈アチェエトソ遺跡〉に入る前の夜のことだ。





 ――ウィン、あなたどうして、あの子を連れてきたの?


 ――うん、どうしてもほっておけなくて……。


 ――私たちの旅がどういうものか、あなたが一番分かっているはずでしょ?


 ――リリー、そう言うなって、オレはいいと思うぜ、フィンには見どころがある。


 ――見どころねぇ……


 ――アイツの【刻印】だよ! こんなの出来るやつフツーいるか! あいつはスゲーよ!


 ――イシシッ! アタシの眼にくるいは無かったでしょ!


 ――そう、でも私が気にしているのはウィンの自身のことよ。


 ――アタシ自身?


 ――そうよ。きっと別れつらくなるし、あのフィルくんもつらくなるはず。


 ――うん、リリー姉の言いたいことは分かるよ。


 ――なら、どうして? その〈傷害インジャリィ〉の【烙印】は、30になったその日に、あなたを確実に殺すのよ? お母さんがそうだったように……。


 ――もうよせよ。リリー、そんなのウィンだってわかっている。それを止めるためにオレたちは旅をしているんだろ?





 それを聞いたとき、言葉が出なかったよ。


 15年後に死ぬ? それも確実に?


 そんな話、聞いたことなかったからね。


「おふくろはオレが12で、ウィンが10の時に死んだ。死に目は親父に追い出されて見れなかったけどよ。【烙印】に首をしめられてな」


 あぁ……ウィンが首にチョーカーをつけているはそのためだったんだ。


「15の時に同じものが刻まれたとき、あいつすげぇ泣いてさ、手の付けようがなかった」


 いつも明るいウィンからは想像つかなかい話だけど……。


 でも、そりゃそうだよね。


 いきなり死ぬって言われたら、だれだってそうなるよ。


「〈洗礼〉のとき〈教会〉のやつらがなんて言ったと思う? 多くの人の傷を治せる、それは神に選ばれたという、とてもすばらしいことなんですよ――だってよ」


 【烙印】がうかび上がると、〈教会〉に洗礼を受けることになっている。


 そういえば自分の時も同じようなことを言われたなぁ。


「当然、親父とオレ、リリーもブチキレたさ。クソくらえってな!」


 うん、その気持ち理解できる。 


「だっておかしいと思わねぇか? よくわからなぇ先祖の罪だか知らねぇが、その子孫、子供であるオレらには関係ねぇじゃねぇか?」





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次回! 「もう悩まない! 『オキテ』破りの旅が今始まる!」

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