第6話 触手系モンスターでよくある『トラブル』

 ウィンは銃がバルーンポポーのジャムったのでいったんおやすみ。


 もちろんクリーニングは自分のしごと。


「ねぇ? フィル。なんでいっしょに入ってくれることにしたの?」


「あぁ、うん。そうだね。病気の子供を救うって話を聞いて、昔のことを思いだしたからかな」


 自分の田舎は、ちょくちょくモンスターにおそわれて、そのたびに賞金稼ぎバウンティ―ハンターが助けてくれた。


 そのときからちょっと憧れがあったんだ。


「ふ~ん、やっぱり男の子だね」


 そういう風に言われると少しテレる。


「ああ、それと、レヴィン兄ぃがごめんね。イヤになってない? だいじょうぶ?」 


「ん? そんなことないよ? どうして?」


「フィル。ちょっと暑苦しんじゃないかって」


「あはは、たしかにね」


「レヴィン兄ぃ口にしたことないけど、ほら、兄弟ってアタシたちだけでしょ? 前から男兄弟が欲しかったみたいなんだ」


「へぇ~それでか……」


「うん、だから、良かったら『アニキ』って呼んであげて」


 う~ん。


 でもなぁ……。


「やっぱり、なにか気がかりなことがある?」


「いや、だってさ。レヴィンが僕の『兄』になるってことは、つまり……」


 だめだ、とても言えない。


 顔が熱くてそれどころじゃない。


「どうしたの? 急に顔を赤くして、あ…………プっ!」


 ウィンが急にふきだした。


「……イシシッ! もう! かわいいなぁフィルは! もしかしてアタシとそんな関係になりたいの?」


「な……べ、べつにそういうわけじゃ!」


「もうすこし背が伸びたら考えなくもないかな。ニシシ!」


 くそ……また、からかわれた。


 正直なところ、レヴィンを『アニキ』と呼ぶのにためらうのはそれだけじゃない。


 昨日の夜、聞いてしまったんだ。


 ウィンの刻まれた【烙印スティグマ】が実は……。


「何してんの! 早く行くよ!」


 正直、え? って思ったよ。


 でも――。


「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」


「うわぁっ! すごい悲鳴したぞ! この声まさか!」


「……リリー姉ぇの声だ! 何かあったんだ! リリー姉ぇっ!」


「ちょっとウィン! そんなうかつに向かったら!」


 やばい、このままだと――。




 そして案の定。


『GYASHAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


「きゃああああああああああああああああああああああっ!」


「うひょおぉぉぉーーっ!!」


 うわぁ……す、すごい。


 目をおおいたくなるような光景。


 どんな光景かだって?


 そりゃぁ……なんというか。


 ウィンとリリーさんは〈ペヨーテ・テンタクル〉の触手にからめとられ、体中にからみつかれ。


 服をまさぐられ、あられもない格好で……。


 ちなみに興奮して変な声を上げていたのはレヴィン。


「こっちみんな! エッチ! バカ! ヘンタイ!」


「見てない見てない!」


「指のあいだ開いてんじゃない!」


 だめだ。なんとかしなくちゃ。


 このままだと精神がもたない。


 ここはレヴィンと協力して……。


「うへへへへぇ……」


 やばい。すでに状況は絶望的だ。


『GYUSHHHHH……』


「い、いやぁ、み、見ないで! ま、まって! そんなところ! イ、いやあああああああああ!」


 触手がリリーさんの民族風のスカートの中へ入っていって……ぐへぇ。


「クーン!」


 GYARRッ!


「いったぁぁ! キキ! な、何するんだよ! それに危ないからバックから出てきちゃダメだって!」


「クーンクーン! ギャーギャー!」


「なに? 見とれているなって? べ、別に見とれていたわけじゃ……」


 そうだ! 何をしていたんだ!


 レヴィンが動けない以上、自分がやるしかないんだ。


「ありがとう。キキ、目が覚めたよ!」


「キュー!」


 とはいっても、あのムチのような速さの攻撃をどうかわせば……。


 KASCH――!


「キキ! ダメだよ! 拍車スパーであそんじゃ――」


 ん? ちょっとまてよ……そうか!


 キキが拍車の花車ラウエルであそんでいて、思いついた!


 彫刻刀グレーバーとハンマーを取り出し、僕は――。


 CLAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANK――ッ!!


 大急ぎで拍車に本来馬につかう、【速度上昇】の【刻印】を入れた!


「よし!」


 そしてすぐにボウナイフとヴァラクルスを抜き――。


 KASCH――!


 拍車をかち合わせ、走った!


 GWOOOOOO!!


 風がいたい! でも思った通り! 速力が上がっている!


 この【刻印】はふれたものの【速度】を上げるものだったんだ!


 BAM! GQUSH!


 BUMP! KABOOM!!


「やっぱりだ。走ったところに振り下ろしてくる。でもなんて力!」


 前に酒場のマスターが言っていた。


 〈ペヨーテ・テンタクル〉は根の感覚から獲物の場所をとらえるんだって。


 でもこの速力なら!


 僕はカベを足場にして飛ぶ!


「ここっ!」


 いっきに触手をぶった切る!


 ZSS! ZOSCH! ZWWUSCH!!


「フィル……すごい……」


 やば! スピードが出すぎた!


 前にカベが! こうなったらもう一度足場に!


 DOGOH!! PISH! 


「ぐっ! いったぁー!!」


 骨がくだけるかと思った。


「フィル! あぶないっ!」


 しまった。無数の触手が目の前に。


 でもその時――BOMM!!!


 な、なんださっきの爆発!?


 そんな【刻印】いれてないぞ?


「すまん待たせた! フィル! もうだいじょうぶだ。ここは『アニキ』であるオレにまかせて、お前はウィンとリリーを助けろ!」


「レヴィン! 鼻血! 鼻血!」


 ドヴァドヴァ鼻血流していてどこが平気なんだか。


 けど、おかげでスキができた! 


 僕はもう一度カベを足場にして飛び、ウィンの下へ!


「ウィン! 今助ける!」


 ――ZOSCH! ZSS!


「きゃあぁ!」


 触手を切っりはらって、ウィンをだきしめる!


「だいじょうぶ! ウィ――」


 ――BONK!!


「ぶは……っ! な、ななにをっ!?」


 いきなり顔をグーでなぐられた。


「う、うるさい! 見てないでさっさと助けてよ! 弱そうにみえてめちゃくちゃつよいじゃん! もう! バカバカバカぁっ!」


 DONK! BONK!


「痛い痛い痛い! だから助けたじゃないか! そんなことよりも! あっ!」


 いつの間にか、リリーさんが今にも〈ペヨーテ・テンタクル〉に飲みこまれそうに!


「だ、だれか! ぎゃあああああああああ!」


「ま、まずい!」


 BOOOOM!!


 走り出した直後、〈ペヨーテ・テンタクル〉の口がまたしても爆発!


 触手がゆるみ、リリーさんが落ちてくる!


「きゃあああああああああ!」


「うぉぉぉぉ!! リリィィィィィ――ッ!!」


 寸でのところで、レヴィンが受け止めていた。


「良かった……」


 でもなんだろう。


 このおいしいところを持って行かれた気分は?


「よう! ケガはなかっ――」


 ――GONK!! 


「ぐはっ!」


 DONK! GANG! BONK! KONG!


「ぶはっ! ぐほっ! げふっ! げふっ! や、やめ……」


 うわぁ……ぉ……。


 リリーさんがつえで、レヴィンをボッコボッコにしていく。


 無表情だから余計にコワイ……。


「リリー姉! とりあえずレヴィン兄たちのオシオキはあと! アレを片づけるよ!」


 ん? ちょっと待って!


 いま「たち」っていった? ねぇ!?


「……ハァ……ハァ……そうね……私達をはずかしめた罪とってもらうわよ! このヘンタイモンスターぁっ!!」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回! 「ちょっと待った! アイテム回収はもっと『慎重』に!」

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