第3話 空から降ってきた少女は押しが『ハンパ』なかった!?

「なにそれ、もしかしてその【刻印】全部あなたが入れたの!? すごい!」


 ほめてくれる割に、さっきまでイラだっていたようにも見えた。


 ちょっとうるさかくしすぎたかな?


 でも、この辺じゃ見ない顔。


 みつあみ一つ結びのアルビノの少女。


 左右にホルスター、二丁使いの賞金稼ぎバウンティーハンター


 手足ほっそ!


 それに酒場サルーンの二階から飛び降りててきた身のこなし。

 

 むしろサーカスのスターとかの方が似合いそう。


「あたしウィンウィル。あんた名前は?」


 口はガサツだけど、自分から名を名乗るたしなみはあるみたい。


「……フィル」


「フィル……ふ~ん、何だか心のすき間をうめてくれそうな名前だね」


 ん? 今のもしかしてジョーク?


 スペルは『fillすき間をうめる』だけど。


 両親にもそんなこと言われたこと無いぞ?


「あまり面白くはないよ、それ」


「なによ。ほめてるのに少しつれな~い」


「クーン!」


「あれ!? なになに!? この子!?」


「……あぁ、この子はキキ、僕の友達」


「か、かわいい! ほら、おいでおいで」


 え? おどろいた。


 キキはあまり人になつかい。


 なのに彼女の肩に飛び乗って、ほほをすりすりしている。


 この子そんなに悪い子じゃないのかも。


「あはは! くすぐったい……で、ものは相談なんだけど、あたしのにも入れてくれないかな? 【刻印】」


「はぁ? やだよ……これから大急ぎでこっちを仕上げなきゃいけないんだから」


「心配しなくても、お金ならあるよ。1リード2ネントでどう?」


「そんなの5ネントつまれてもやらない」


「じゃあいいよ。6ネントで」


 THUD――ッ!


 麻袋が目の前にどっさりっ!


「だいたい1ノルぐらい入っていると思う。アンタのおまかせでお願い」


 そんなに!?


 1ノルあればステーキ1枚食べられる。


 やば、よだれが……待てここは冷静に。


「いや、いくらつまれても、無理なものは無理――」


「じゃあ、おまけしてデートしてあげる」


「……」


「ね? いいでしょ? お願~い!」





 

 とんでもない子だった。


 酒場の主人の話だと、今日町に来たらしい。


 なんで兄姉妹きょうだい3人で旅をしている賞金稼ぎだとか。


「一応エリオットたちの分の手入れは終わった。エリオットたちは今日もどんちゃんさわぎか……はぁ……」


 夜になっても自分は作業を続けていた。


「あとはあの子の、お金はもらっちゃったというより押し付けられちゃったしなぁ……」


 もちろん明かりさす酒場の雨除けの下でね。


「やらないわけにはいかないよな。あともうひとがんばりするか!」


 キキはもうぐっすり。


「してもだ。あの子の銃、二つともオーソドックスなショートバレルタイプだけど、 なんだこれ? 銃身バレルがゆがんでるじゃないか」


 これじゃ当たらないだろうに。


 グリップのすり減り具合からして、少し手にあってない気がするなぁ。


 それにやたら軽い。


 これじゃ反動を吸収できない。


 下手したらケガする。


「するとやることは、すこし重くなるけど【重量】と【命中補正】、なんだこれ! 口径もデカいじゃないか! だとすれば……」


 これは【装填そうてん数】をいじれないし、合計Lv25しかできないし、こんな感じかな。


<クイック&デット>

 【攻撃補正】――Lv5 初期値8(+1)×2→45(+37)×2

 【命中補正】――Lv7 初期値16(+2)×2→128(+112)×2

 【重量】――Lv10 初期値42oz×2→51oz(+9)×2

 【会心補正】――Lv3 初期値0.2(+0.1)×2→0.5(+0.3)×2

 【装填そうてん数】――Lv- 初期値6×2

 【追加効果】――起死回生クリーニングアップブースト


 気づけば、コヨーテの遠ぼえがきこえるくらい夜がふけていた。


 こんなに熱中したの久しぶりかも。


 だめだ。


 いい仕事をした気になって、浮かれていたらエリオットの時の二の前だ。


「どうせ文句いわれるかも……」


 もう寝ているかなぁと思ったけど、二階にを見上げるとまだ明かりがついていた。


「よかった。まだ起きてる……」


 主人に話をしたら呼んできてもらえることになって――ちょっと待てよ。


 こんな夜おそくに迷惑じゃないか?


 やっぱり明日にした方がよかったかな?


 でも明日は朝から依頼クエストがあるし……う~ん。


 いまさらそんなこんなウジウジしていたら――あの子が降りてきた。


「えっ! うそっ! もうできたんだ! 早い! 別に明日でもよかったのに……そんなにアタシとのデートが楽しみだったと見えますなぁ……ニシシ」


「いや、それは断ったでしょ?」


 悪役のような顔で笑い声をあげるような子とデートってむしろ罰ゲームでしょ?


 お前何を言ってるんだって? もちろん考えたよ。


 このタイミングを逃したら多分一生女の子とデートするなんてないだろうし。


 でもさ、いくら相手がかわいくてもこう……あるじゃん?


 それに何を話したらいいかわからない……そうだよ! おじけづいたんだよ!


 それが本音! 悪かったな!


「じゃあ、はい、これ。感触を確かめてみて」


「なんかつれなぁ~い……まぁいっか。じゃあさっそく」


 TCHAK――ッ!!


「へぇ……」


 二丁の銃を軽々とふりまわして構える。


 なかなか様になっていてびっくりした。


「なんか私のクイック&デッド、少し重くなった? それに前より、なんだかしっくりくる」


「うん、軽いと反動を吸収できないからね」


「そうなの!? てっきり軽ければいいんだと。どおりで子供のころは当たったのに、最近当たんないなぁと思った!」


 ……あぁ、そういことね。


「前より数倍【命中精度】が上がっていると思うよ。そういう【刻印】を入れたから、口径も小さくしたよ。22口径、弾ある? 用意しようか?」


 それにしてもなんだろう、あの人たち。


 二階から見下ろして、クスクス笑って。


「大丈夫……でも、やっぱりすごい。むしろアタシの方に見る目があったっていうべきかな。これなら一人で店開けるんじゃ……ってどうしたの?」


「いや、あれ……あの人たち――」


「あっ! コラァァァーーーッ!!」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次回! 「カワイイ(?)女の子があなたを『仲間』にしたがっています。一緒に行きますか?」

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