第9話 イヌの鬼のなかよしグループだよ。

 教室はおおさわぎになった。

 とうぜんだ。だってクラスで一番勉強ができて、かなりカワイくて、クラスのリーダーの犬居いぬいさんから、ツノの生えた、まっくろでおっきな犬が出てくるんだもん。


 ツノの生えた、まっくろでおっきな犬は、おっきな声でさけんだ。遠吠とおぼえだ。

 すると、犬居いぬいさんと仲良しグループの、辰川たつかわさんと、牛尾うしおさんが、カワイイ巫女装束の、ミコ風水くんに襲いかかってきた。


 わたしは、ムネが「チクン」とした。


「なるほど、このふたりに取りついてるんだ♪」


 ミコ風水ふうすいくんは、ふたりの攻撃をひらりとかわした。クラスの女の子のなかで、一番足が早い辰川たつかわさんと、チカラもちで、男の子との腕ずもうにも、あっさり勝っちゃう牛尾うしおさん。

 そんなふたりの攻撃を、ミコ風水ふうすいくんは、まるでダンスをするみたいに、ヒラリヒラリとかわしていく。


「サポートするぜ!」


 凪斗くんは、ポケットに手を突っ込むと、青色のちっちゃなガラスのビンを二本とりだした。

 そしてキャップを「パキリン」とあけると、ゴクゴクと飲んで、


「ブッ!」

「ブッ!」


 っと、辰川たつかわさんと、牛尾うしおさんにふきかけた。


「ギャアアア!」


 辰川たつかわさんから、モクモクと黒いケムリがたちこめた。そしてその黒いケムリはゆっくりと、おっきなドラゴンになっていった。牛尾さんから、たちこめた黒い煙は、おっきなウシになった。どっちもツノが生えている。


 おっきなドラゴンの鬼を出した辰川たつかわさんと、おっきなウシのオニを出した牛尾うしおさんは、その場にパタリとたおれた。


「どんなもんだ!」


 凪斗くんが、得意そうに言った。すると相生そうじょうくんに、


「バカ、早すぎるって、教室がめちゃくちゃになっちゃうだろ!

 バトルステージができるタイミングに合わせてくれよ!!」


って、ものすごく怒られた。


「あ、そっか! ごめん!!」


 凪斗なぎとくんが頭をかくと、ミコ風水ふうすいくんが言った。


「大丈夫、大丈夫、どうせボクにしか攻撃してこないはずだし。壁上土へきじょうど!!」


 ミコ風水くんは、ニコニコしながら手を「パン!」とたたいた。そして、たたいた手をひろげて「くるりん」と回転した。手からキラキラと光があふれた。すっごくキレイ。


 おととい、トラの鬼のパンチを受け止めた納音なっちん術だ。


「鬼さんこちら♪  手の鳴る方へ♪」


 ミコ風水くんは、教室の窓から「ヒラリ」と飛び降りた。

 え、だからここ二階だよ!?


 そう思ってたら、モニターにうつったミコ風水ふうすいくんは、教室の外にできた、空中に浮いている、あおみどり色のうずの上に立っていた。


 ミコ風水ふうすいくんは、あおみどり色のうずの上で、リズムをとって、手をたたき始めた。まるで、アイドルのコンサートみたい。ファンをもりあげるやつ。


「鬼さんこちら♪  手の鳴る方へ♪」


 相生そうじょうくんがさけんだ。


「なるほど! 未神楽みかぐら神社におびきよせればいいのか!」


「そ♪ そうすれば、バトルステージもいらないし、教室もこわれないでしょ?

 ボクが引きつけて未神楽みかぐら神社につれていくから、相生そうじょうは、教室のみんなの記憶をにしちゃってよ!」


「まかしとき!」


 答えたのは、相生そうじょうくんじゃなくて、こまち先生だ。


「それやったら先生のや! 柘榴木ざくろぼく!」


 こまち先生が、呪文みたいな、必殺技みたいな言葉をさけぶと、犬居いぬいさんの頭の上に、「ぽんっ!」って真っ赤な花が咲いた。

 つづけざまに、辰川たつかわさんと牛尾うしおさんの頭にも、「ぽぽんっ!」って真っ赤な花が咲いた。


 そして、今度は一気に、クラスみんなの頭のうえに、「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽんっ!」って真っ赤な花が咲いた。

 そして、クラスのみんなはバタバタとたおれた。


木行もくぎょう誘眠ゆうみん! おやすみ八卦はっけ! かんにんや!」


 こまち先生は、アイドルみたいに「シャキン」って決めポーズをとった。もう何度も何度も、やったことがあるみたい。


「こっちは、先生にまかせて、かがみくんと、つるぎくんと、勾玉まがたま先生は、三匹の鬼をたのんます!」


「はーい! 鬼さんこちら♪  手の鳴る方へ♪」


 ミコ風水ふうすいくんは、緑色の渦の中に飛び込んだ。

 ミコ風水ふうすいくんを映すモニターは、たちまち一面あおみどり色になった。そして、わたしの家、つまり未神楽みかくら神社の境内に「スチャ」と降り立った。


「はーい! 鬼さんこちら♪  手の鳴る方へ♪

 こわくないよ〜!

 ちょっと、乗り物酔いする人にはつらいかもだけど」


 イヌの鬼と、ドラゴンの鬼と、ウシの鬼は、ミコ風水ふうすいくんを追っかけて、あおみどり色のうずに飛びこんだ。


「オレにも戦わせろ!」


 それを追いかけて、凪斗なぎとくんも、あおみどり色のうずにとびこんだ。


勾玉まがたま先生も、早く!!」


 こまち先生がさけぶと、相生そうじょうくんが冷静に言った。


「いいえ。ぼくは、こっちに残ります。まだ、最後の一匹の鬼を見つけていない」


「そやった! あ、でもなんで? 先生の柘榴木ざくろぼくは、神通力がめっちゃ弱い人にしか効かんのやけど……鬼にとりつかれとったら、神通力が強なっとるから、絶対に効果がないはずなんやけど……みんな、ちゃんと眠っとる」


 こまち先生は首をかしげた。


「そうなんです。カンがするどい凪斗なぎともわからないって言っていました。本当にどこにかくれているのか……まったくわからない……」


 相生そうじょうくんも、首をかしげた。


 わたしは、鏡の中のあおみどりの部屋で、そんなふたりを、ずっと見ていた。

 言わなきゃ。鬼がどこにかくれているのか、きっとわたしにしかわからない。

 わたしは、勇気をだして、言った。


「……わたしが知ってる」


 わたしのこえは、教室の放送スピーカーから流れた。

 (どういう仕組みなんだろう……)


「え?」

「え?」


 モニターに、おどろく相生そうじょうくんと、こまち先生が映っている。

 わたしは勇気を出して言った。


犬居いぬいさん、辰川たつかわさん、牛尾うしおさん。

 学校に来れなくなった瑞子みずこちゃんをイジメていた三人に、鬼がとりついたんだ。

 そして、最後の一匹は、大親友の瑞子みずこちゃんがイジメられているのに……自分もイジメられちゃうのが怖くてずっとだまっていた人のなかにいる」


「ええ!?」

「ええ!?」


 おどろくふたりに、わたしはありったけの勇気をふりしぼっていった。


「最後の鬼は……わたしの中にいる」

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