転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件

雲雀湯/角川スニーカー文庫

プロローグ

 ある夏の終わりの夕暮れだった。

 それは彼らがまだ、楽しい日々がいつまでも続くと無邪気に信じていた時のこと。

『ひっこし?』

『うん、すっごくとおいとこ』

『もう、あそべなくなるのか?』

『……わかんない』

 山奥にある神社の更に奥、古い社殿を利用した遊び慣れた子供たちだけの秘密基地。

 そこで戸惑う2人の子供は、互いにうつむき肩を震わせ、しかし涙すまいとこらえている。

 引っ越し。

 その意味がわからないほど幼くはなく、そしてどうしようもない別れがあるということも理解してしまう。

 頭の中はぐちゃぐちゃで、言い様のない感情が身体中を駆け巡り、彼らの胸と感情を焦がす。


 大切な友達だった。


 ただでさえ過疎の進む山里で、数少ない子供同士。妹とも一緒に毎日のように遊び回り、これからも一緒だと信じて疑わなかった。

 だからそれは、現実を認めまいとする抵抗であり意地だった。

 強引に小指を取って絡ませる。

 戸惑う相手のことはお構いなし。

 だけど、どうしても何かせずにはいられない。

『はるき、おれたちはずっとともだちだから!』

『う、うん! ボクたち、はなれていてもともだちだ、はやと!』

 それは子供同士の小さな約束。

 周囲に咲き誇る向日葵ひまわり、飲み干した空のラムネ瓶、カナカナと鳴くヒグラシの声を証人に、小指をつないで交わされたさいな儀式。

 どうしようもない別れを前にした、再会を願うもの。

 だから2人は無理矢理にでも笑顔を作る。

『いってきます!』

『おぅ、いってこい!』

 ゆえに、別れの言葉は交わさない。


 それは今からもう、7年も前のことだった。

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