第13話 颯爽登場、美少年!

 帰りのホームルームが終わると、俺はそそくさと教室を出る。

 用もないのに長居してもクラスメイトに何をされるかわからない。


 あかりは先輩とやらに呼び出しをくらっているから、今日は背後に怯える必要もない。久々に晴れやかな気持ちだ。

 呼び出しというのはおそらく部活の関係だろう。あかりの超絶運動神経は運動部なら誰もが知るところだ。

 二年生になった今もあかりはしつこく多方の部活から勧誘を受けている。

 あれだけの能力があるのに小学生以降、帰宅部を貫いているんだから驚きだ。

 なんで部活に入らないのかと中学生の頃に聞いたこともあったけど、なぜか殴られたから俺の中では触れてはいけない禁忌の話題リストに刻まれている。


 俺は駆け足で階段を降りて昇降口に向かう。

 人を連れているとはいえ久遠さんと一緒に下校するわけにもいかない。

 どちらかというと俺の方が身軽だから、さっさと学校をでて目的地に到着しておきたい。

 あかりが不在だからといって油断はできないんだ。いつ誰に見られているかわからない。人伝に不都合な情報が漏洩したら終わりだ。


 下駄箱から靴を取り出してさっさと履き替えようと上履きを脱いでいると、


「ちょっと、キミ!」


「え? あ、はい。俺ですか?」


「そうだ」


 急に後ろから声をかけられて俺は動きを止める。

 振り向くと、知らない顔の男子生徒。しかもめちゃイケメン。

 同学年ではない。かといって年下の雰囲気も感じない。三年生だろう。

 地毛なのか染めているのか、金髪に青い目。もしかしたらハーフなのかもしれない。体格はしっかりしていて身長も高い。何頭身あるんだ、モデルかよ。

 三年生の先輩はいっそ怒っているようにも見えるほど真剣な顔でこちらに歩み寄ってくる。


「これ、落ちていた。キミのだろう?」


 差し出された右手を見ると、折り畳まれた白い布が握られていた。

 心当たりのありすぎる物を見た俺は慌てて鞄を漁る。

 テーブルクロスがなかった。


「あっそれ! そうです、俺のです!」


 どうやら先輩は俺が不注意で落としてしまったらしいテーブルクロスを拾ってくれたようだ。

 俺は先輩からテーブルクロスを受け取る。

 距離が近づくと、ほのかに甘い香りが鼻をくすぐる。香水だろうか。

 俺は香水の匂いは得意じゃないから、それとなく距離をとって頭を下げる。


「すみません、ありがとうございました」


「いや、いいんだ。それにしてもそれはなんだ? タオル……じゃないよね」


「あーいや、これはその……」


「言い辛いことならいいんだ。それじゃ、俺は用事があるからもう行くよ。身の回りには気をつけてね、東雲君」


「あ、はい!」


 先輩は表情を砕いて微笑むと、踵を返して歩き去る。

 俺はその後ろ姿をぼーっと眺めてしまう。

 歩く姿が様になっているというか、なんだか少女漫画のヒーローみたいな人だった。外面だけならあかりに匹敵する。この学校にあんな生徒がいたなんて知らなかった。


「……あれ、俺名前教えたっけ?」


 気のせいだろうか。

 名前を呼ばれた記憶があるような、ないような。

 あかりは学校では知らない人がいない有名人だし、彼氏の俺の名前も学校に広まっているんだろうか。


「まあ、いっか」


 今さら名前を覚えられているくらいで悩んでいられるか。

 あかりに好意を持っている男子なんて腐るほどいる。それどころか女子にもいるくらいだ。

 俺みたいな脇役顔よりも自分の方が彼氏に相応しい、なんて邪な考えの生徒がちょっかいをかけてくることもある程度は想定している。

 あの先輩がその類の人間だとは思えないけど、一応警戒はしておこう。

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