第2話 宿屋の二人

いつの間にか眠ってしまったようだ。

「コケーコッコ、コケーコッコ」と鶏の騒がしい歌声で目が覚めた。

まだ辺りは薄暗く夜明け前のようだ!?


眠い目を擦りながらベッドから起き上がり、部屋を出て一階に下りると女将さんが居た。


「おはよう御座います」

「あら?おはよう、随分と早起きね。裏手に井戸と桶があるから顔を洗ってらっしゃい。朝ご飯は7時からだから、まだ2時間も有るわよ」


僕は宿屋を出て裏手に回り井戸から水を汲んで顔を洗った。

「く〜冷たくて気持ちイイ。でも朝飯まで2時間もあるしどうしよう」


(チャーチャーラ、ランカタッカ、チャーチャー、ランカタッカ、背伸びの運動)

なんだかまたメロディが響いて身体が勝手に動き始めた。

一通り体操をしてから村を散策する事にする。

「女将さん。村の中を散歩するので部屋の鍵を返しておきますね」

「あんた武器も持ってないんだから村の外には行かないようにね」


朝早いのもあるのか、まだ空気が冷んやりして気持ちがイイ。

村の入り口付近まで歩いて行くと、徐々に山間やまあいからオレンジ色の朝日が顔を出し、辺りを照らし始めた。


どうやらこの村は山の麓にあり、村の北側には大きな山、東側にも幾つか山が聳え立っている。


季節は春なのか!?


森の木々は新緑の芽を出し朝露に濡れ青々と輝いている。

空気も美味いし長閑のどかで過ごし易そうな所だなと感じた。


(そうだ、今日はギルドに行って仕事探さなきゃいけないんだった)

村の入り口から引き返して歩いていると剣と杖を交差させた看板を見つけた。


一二階合わせて建坪80くらいあるのだろうか!?

左隣にも一階建ての40坪くらいの小屋がある。

良く見ると入り口に冒険者ギルドAM8:00〜PM22:00と書いてあった。

何だ宿屋を出て左側の三軒先で直ぐ近くだった。

てか建坪?って何の単位だっけ?

思い出せない。


ギルド前の道路を挟んだ反対側は、300坪以上の空き地があり、周りには木々が植えられ囲まれている。

ギルドの右側には商店らしき家が2軒あり、片方の家の煙突からモクモクと煙が立ち上りパンの焼ける香ばしい匂いがした。


中央通りの奥に村長の家が有り、右手に曲がり奥に進むと、鶏舎や馬小屋に2頭の馬、牛舎には数頭の牛が居た。

その後一時間程のんびりと村を散策し宿屋に戻ると女将さんに、

「もう朝食の準備出来てるわよ。食べるならこれから用意するわよ」

と言われたのでカウンターに腰掛けた。


朝食はパン2切れとスクランブルエッグにベーコンと牛乳が配膳された。

卵はほんのり甘く、ベーコンはカリカリで香ばしくて美味しい。

パンは少し硬いが牛乳で流し込んで完食した。

あれ?牛乳飲むとお腹ゴロゴロしなかったけ?飲んじゃって大丈夫なのか不安になる。


すると2階からギルバートさんとヒルダさんが下りて来た。

僕を見てニコっと微笑みテーブル席に向かい合わせで座り朝食を食べ始めた。

「ねえ、落ち着いた?何が思い出した事あるの?」


草原からコロコロ転んで岩に頭をぶつけて気を失った事を話したら、クスッと笑われた。


「何処から来たのか?名前は?歳は思い出した?」と聞かれ、ふと思い出した!


「名前はクゼ・ダイチ。歳は30才だったはず!?」


〈ブッハァー〉

牛乳を飲んで居たギルバートさんが、ヒルダさんの顔目掛けて口から白い霧を吐きだした。


「ちょっとちょっと、なんて事するのよ」

「すまん。だってこいつが30才なんて言うからさ。お前まだ髭も生えてない子供じゃん。30才って言うと俺より年上だぜ。そんな訳あるかい」


「あれ?そう言えば僕って自分で言ってるし変だよね。何で30才なんだろ?」


「そんな事俺に言われても分からんが、記憶糖質じゃねえの?」


「それを言うなら記憶喪失よ」


「歳はどう見ても13〜15才くらいにしか見えんよ。なぁヒルダ?」


ヒルダさんは顔をハンカチで拭き拭きしながら「私にもその位にしか見えないわ。成人してるかどうか怪しいわね」

「お前ギルドに登録した?」


「今日朝イチで登録する予定です」


「それじゃアドバイスしてやるよ。14才未満は親とかの保証人がいるんだ。お前は多分保証人居ないから15才でしている事にするんだ。そうすればお酒も飲めるようになる。どうせ本当の歳なんて分かりゃしない。自称で良いんだよ。登録しちまえばこっちのもんよ。ハハハ」


「そう言うもんですか。身寄りも多分居ないですし15才にしときます」


「ねぇあなた貴族なの?」

「え?そんな事多分ないと思いますよ。ヒルダさん何でですか?」

「だって名前グゼ・ダイチって言ったじゃない」


「いや、グゼじゃなくて久世・大地です」


「ほら家名があるじゃない。クゼが名前でダイチが家名ね。ダイチなんて家名の貴族この国に居たかしら?」


「いやクゼが家名でダイチが名前だと多分思うんですが…」


「それじゃ逆ね。この国では名前が先で後ろに家名が付くのよ。遠い東の方の国では違うって話し聞いたような気がするけどね。あなたそっちの国の出身かもね!?」


「この国では俺らみたいな平民は普通家名は無い。名前が同じ時なんかはアーリー村のギルバートとか、鍛治師の何とかとかそんな呼び方するんだよ。お前は登録する時にダイチ・クゼってした方がいいぞ。ほらもう8時になるからギルド開くぞ」 


「いやぁお二人には色々教えて頂き有難うございました。いつか恩返しさせて頂きますね」

僕は宿屋を出てギルドに向かった。


「なんか変わった子だったわね。子供なのに大人びた話し方するし、やっぱり訳あり貴族の落とし子とかそんなんかしら?」


「ちょっとアドバイスしたぐらいで恩返ししますとか、変に律儀だったよな。次に会ったら酒でも一杯ご馳走になるかな」と二人はニコニコ微笑んで居た。

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