第11話 友達は完璧超人?

 詩と遊ぶ約束をしてから一日が経ち、今日は土曜日、時刻は十一時。詩と約束したのが一時なのを考えると後二時間あるのか……。


 俺は部屋の中を見回す。俺の家では基本的に自分の部屋の掃除は自分でやるよう言われている。そのため、俺の部屋はまあ、たまに掃除をするからそこまで酷くはない……と思うけど、そこそこの汚部屋だ。


 だから、この二時間で俺は自分の部屋の掃除をしようと思う。まずは漫画から片づけるか……

 ……

 ……

 俺は久々に好きだった漫画を読み返し、不思議な充実感に包まれていた。何というか若かりし頃に戻れた気分だ。いや、まだピッチピチの高校生なわけだけど。


 俺がそうして、少しの休憩がてら漫画を読み返した後、そろそろ再開するかと腰を上げたとき、うちの家のインターホンが鳴った。


 俺は反射的に自分の部屋に置かれている時計を確認する。すると既に時刻は十二時五十五分を指していた。


 俺は急いで家のドアを開ける。


 すると、やはりというか扉の先には詩がおり、俺がドアを開けると手を振りながら挨拶してくる。


「おはよう。湊の家に来るのは二度目だから迷わず来れるか心配で少し早く家を出たんだけど、大体ぴったりくらいには付けたかな」

 

 そう、詩が俺の家に来るのは二度目。とはいえ、あの時は俺の部屋の汚さに母さんが痺れを切らして一緒に部屋を掃除した後だったんだよな。


 そんなことを考えていると母さんがリビングから顔を出す。


「あら、詩君、いらっしゃい。……湊、ちゃんと部屋の掃除はしてあるのよね?友達が来る前には終わらせておきなさいって言っておいたけど」


 ……俺は目をそっと逸らしながら


「ほ、殆ど終わったと言っても過言ではない……かも、しれなくもない、です」


 その返しを聞いた母さんが一瞬般若のような顔を浮かべかけた所で俺に助け船がでる。


「もしよろしければなのですが、僕が手伝いましょうか?」


 そう、俺の救世主、詩が名乗りを上げてくれたのだ。しかし、それに対し母さんが

「いいのよ、詩君は気にしなくても、何だったら湊が掃除終わるまでリビングで待ってる?」

 と提案する。しかし、流石は俺の救世主。その母さんの提案に首を横に振る。


「いえ、提案はありがたいのですが、二人でやった方が早く終わるでしょうし、出来れば湊君の掃除を手伝わせてくれないでしょうか?」


 流石にこうまでしたてに出られてしまえば母さんも頷くしかない。


「そう?詩君がそこまで言うならいいんだけど……湊、優しい詩君に感謝するのよ。後、詩君がいくら優しいからって甘えすぎなようにね」


 あっさり引いてくれたと思ったら、最後に釘を刺してくる。


「そう言えば、もしよろしければなんですが、これを」

 詩が何かを取り出してくる。袋と中の箱の大きさ的には何かのお菓子か?


「あら、これって、もしかして、最近できたっていう人気のお菓子屋さんの?」


 母さんはこのお菓子のことを知っているらしく、かなり驚いていた。


「ええ、家を早く出すぎて手持ち無沙汰だったのとそう言えば今日は何も手土産を持ってきていないことを思い出したので買って来たんですよ。ご家族で食べて頂ければ」


 母さんが知ってるほど人気な店なのか。


「いつもいつもありがとうね。詩君」


 母さんが申し訳なさそうにお礼を言う。家の前でずっと話しているのもあれなので俺は詩を中に招く。


「くれぐれも詩くんに迷惑をかけないようにね」


 と詩を部屋に招く際に母さんが再度釘を刺してきた。



 それはともかく俺はドアを開け詩を部屋に入れる。


「まあ、ちょっとだけ汚れてるけど、あんま気にしないでくれ。」


 俺がそう言いながら、漫画を読んでいたため全く片付いていない部屋に詩を招き入れる。


 詩は俺の部屋を見ると一瞬、ほんの一瞬だけ頬を引きつらせる


「……これは中々だね」


 ぼそりとそう呟くと、しかし、すぐに意識を切り替えたのか。すぐに掃除に移る。


 まず、俺が漫画を読んでいたため、少し本棚から出てベットの上や床に散乱している漫画を片し、次に学校の教科書やノート。片づけるのが面倒でそこら辺に置いている洗い立ての服を次々と片していく。


 その後は俺に支持を出し、その指示に従い俺が掃除機やクイックルワイパーなどを持ってくるとそれで部屋を掃除する。

 

 にしても、えらく手際がいいな。何というか。俺が二割、詩が八割くらいの貢献率となっている気がする。


 ……そう言えばうちの母さんが前に詩が来たとき「湊がこんな可愛らしい彼女さんを連れてくるなんて」と言っていたのを思い出した。


 その時の母さんの勘違いは詩本人が訂正したことにより解決したが、ここまでの掃除スキルを持っていると母さんの勘違いが正しいんじゃないかと思ってしまいそうになるな。


 ……いや、というか、詩は基本的になんでもそつなくこなしていたな。


 勉強でわからない所があれば詩に聞けば教えてもらえるし、運動、というか体育に関してもそつなくこなすイメージがある。決して個人技で周りの度肝を抜くタイプではないけど、レシーブ、トス、トラップ、パスそういう周りのサポートを陰ながら行っているイメージだ。


 詩が俺に声をかける


「終わったね。湊」


 俺はその声に辺りを見渡すと先ほどまで汚部屋だったとは思えない光景が広がっていた。


「綺麗になってる」


 俺が一人で感動していると詩がクスリと笑い。


「これでようやく遊べるね」

 と言ってきた。それとほぼ同時に俺の部屋がノックされ、それに「どうぞ」と返事をすると母さんがケーキと紅茶をもって中に入ってきた


「これ、詩君からの貰い物だけど良ければ詩君も食べて。掃除も手伝って貰っちゃったし……」


 少し申し訳なさそうにそういう母さんに詩は笑い掛けながら


「ご厚意感謝します。ありがたくいただきますね」

 と言っていた。


 その後詩と一緒にケーキを食べたわけだけど、なんというか食べ方が上品だった気がする。


 詩にそれを言うと「なんだいそれ」と笑われてしまった。


 もしかしたら、詩の隠れた女子力にあてられてそう見えたのかもしれない。

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