第2話・とりあえず、協力してくれる人がやって来た

 高原で開催されるコンサート準備は、牧村の心配とは関係なく着々と進んでいった。

 会場は町のシンボルともなっている、天文台のパラポラアンテナが見える。芝生公園で屋根つきの野外ステージもある、星歌公園に決まった。


 練習場所と兼用で準備作業の本部は、公民館が無料で提供された。

 公民館の天井を見ながら牧村が呟く。

「順調すぎて、怖いくらいだわ」

 野辺山が、スマホの画面を見ながら言った。

「姉貴から連絡があった、もうすぐ青沼先生たちの運んでくる被災ピアノが、この公民館に到着するってさ」

 やがて、数台の自動車のヘッドライトが公民館駐車場を照らし。

 男たちの手で、トラックから下ろされたグランドピアノが、公民館の中に運ばれてきた。


 ピアノと一緒に公民館にやって来た、青沼先生が白髪混じりの初老男性を紹介する。

「こちら、ずっと被災ピアノの調律師を担当している『羽黒』さん」

 調律師の羽黒さんが、高校生の牧村と野辺山に頭を下げる。

「羽黒です、コンサートが終了するまで青沼先生の家に泊まらせてもらって、スタッフ協力もします。よろしくお願いいたします」

 そう言って、羽黒さんは我が子のように調律を続けているピアノの鍵盤フタを開けて、鍵盤を軽く叩きはじめた。


 羽黒さんが、運搬後のピアノ調律をしているのを眺めながら、青沼先生が牧村と野辺山に質問する。

「ところで、高原で開催するコンサートの正式名称は決まっているの? ポスターを印刷する関係で、早く決めてくれって校長先生とか町のお偉いさんから催促されていて」

 頭を掻く野辺山。

「まったく考えてなかった……『被災した楽器を集めて高原でやる吹奏楽』としか」

 牧村が言った。

「アバウト過ぎる、開催日を決めるためにも。この場でちゃんと考えよう……時間も無いから」


 それぞれが出したコンサートのキーワードになりそうな単語を、青沼先生がホワイトボードに書き込んでいく。


『星歌公園』

『高原』

『コンサート』

『吹奏楽』

『夜空』

『天文台』

『パラポラアンテナ』

『天体観測』

『星雲』

『惑星』

『音楽が聴こえる』


 書き出した単語の中から、気になった言葉を抜き出して組み合わせて。

【星歌聴こえる高原の吹奏楽】が決まった。

 決まったコンサート名を少しホワイトボードから離れて眺めながら、青沼先生が言った。


「これはこれで悪くないんだけれど……なんか、もう一つ、コンサート名の最初に人目を引くインパクトが欲しいわね」

 牧村が提案する。

「じゃあ、木星ジュピターまで届け! っていうのはどうですか?」

「う~ん、悪くはないけれど……もう少し遠い天体の方が」

 今度は野辺山が提案する。

「アンドロメダ星雲まで届け!」

「今度は漠然と遠すぎる」


 牧村たちが思案していると、黙々とピアノ調律をしていた羽黒さんが言った。

「さっき到着したばかりのわたしが、おこがましいが……『マゼラン星雲まで届け!』と、いうのはどうかな? 子供の頃に観ていたSFアニメに、マゼラン星雲まで往復する宇宙戦艦のアニメがあって、地球から近い星雲というイメージがあったのを思い出してね」

 三人が羽黒のアイデアに瞳が輝く。

「ぜんぜん、おこがましくなんてないですよ羽黒さん! 素敵です【マゼラン星雲まで届け! 星歌聴こえる高原の吹奏楽】すごくいい!」 


 コンサート名が【マゼラン星雲まで届け! 星歌聴こえる高原の吹奏楽】に正式決定して、開催日時が決定した頃。

 レタス農家を営んでいる『川上』さんという人物が、牧村と野辺山の学校に現れて言った。


「地元で高原レタスを栽培している、川上と言います。

チャリティーコンサートのチケット代として地場産野菜を購入して音楽を楽しんでもらおうと町に提案して、野菜農家の仲間も地域の活性になるなら協力を惜しまないと言ってくれました。

町の許可はすでに得ていますから」

 さらに川上さんは話し続ける。

「わたしの知人で、セロリ農家の『原村』さんも。自分が育てたセロリをかじりながら、星空の下で多くの人が音楽を楽しんでもらえたら素敵だと。

演奏日の早朝に収穫した新鮮なセロリを会場に運んでくれるそうです……一応、わたしが農家代表と言うことになったので。ご挨拶に学校を訪れました。

演奏当日は、よろしくお願いいたします」

 丁重に薄くなった頭を下げる、川上さんを見て牧村は、どんどんコンサートの規模が大きくなっていく……と、思った。

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