幕間 Vampire-Elegy
想像性を掻き立たせる書物の中で、他者・他人の血を喰らい、例え傷付いても―――
通常ならば他のどの種属からの干渉受けず、孤高の種属として知られたモノなのに……ここにそうではない―――いわゆる『
なぜ孤高の種属に産まれ“最強”の呼び声高いのにそう呼ばれたのか……そのヴァンパイアの名は『ヘレナ』。
これからの語りは彼女が如何様にして数奇な運命の下に現在に至ったのか……
それよりもまず、なぜヘレナが
だからヘレナはこの世に生を受けても身体が
{*つまりこれは、“寿命”や“病”などで死ぬ事はないことを示唆している。}
ヴァンパイアが滅ぶ時―――それは“ある条件”を満たさないといけない、だから今ヘレナが衰弱によって相当弱っているとはしてもこのまま死ぬ事はないのです……が、それはまるで“地獄”―――死のうにも死にきれない、“不死”であるがゆえに強制的に生き永らえさせられると言うのは、辛い事なのです。
* * * * * * * * * * *
そんなヘレナに“運命”の転機が訪れる―――それはある日、雪が
「(… …… ………)―――ここ……は?」
「おや、気が付いたようだね。」
「(まっかな……かみのいろ、まるであかいほのおのような………)」
少しばかり意識を取り戻し薄目を開けてみると、ぼんやりと見えたのは自分の事を
そして
「(あ あ……あたた―――かい……このぬくもり……けれどどうして―――わたしは……わたしのみは、すでにしんでいるのに……)」
それからと言うものは、ヘレナは無償の愛と言うものを一身に受け、育っていきました。 適切・適度な栄養に衣装を与えられ、出身種属が違うと言えどもまるで我が子同然に愛情は注がれて行ったのです。
* * * * * * * * * *
ところで―――全く違う種属であるヘレナを、ここまで愛情を
「(ふむ……これまでこの
私の“師”が言うのには、各地の各種属の中で『
それにカルブンクリスがヘレナを
そう……だから、
「(さて、どうにか
しかしそれは最終的な手段でした。 そう―――カルブンクリスの種属は本作中でも触れたように『蝕神族』……自分よりも上位の存在を“喰らう”事で身体能力値を、そして紡げる
{*但し普通に食材を食し栄養を摂取することは出来る}
だからこそ、彼女は自分自身が魔族の中でも特に『
そんな彼女の血を、
カルブンクリスも、どんな血の状態が―――どんな生物の血がヘレナに適合するのか、色々と試したものでしたが……いずれも失敗に終わってしまっていた。
「(私は―――己の慾望の為に何と言う事をしているのだ。 死ぬに死ねない苦しみを与えて何を得ようとしていたのだ。 最早この上は迷ってなどいられない―――“可能性”を……万が一の可能性を……)」
もう黙って見てなどいられなかった。 確かにカルブンクリスは自分が識りたいとしていたヴァンパイアの生体を識る為に、
だから―――最終的な手段である、
もうこれ以上、自分の慾―――知識欲を充たす為に実験行為を続けるわけにはいかないとしたカルブンクリスは、もう最後に残された唯一の手段―――蝕神族としての自分の血を“一滴”与えてみる事にしました。
そして与えてみた処―――……予想は、していた。 予想は、していた―――けれども、想定していた以上の苦しみ悶え方……叫びにもならない
「(あああっ……くそっ―――失敗だ! 想定していた以上に私の血は“毒”だったのだ!!)」
その“苦しみ”故にのた打ち回り、その“
ヘレナはこの当時132歳でしたが、その
そんな彼女が―――…
魔族一の『
「(こ……これは? わ、私の血が彼女に適合したとでも言うのか!?)」
それこそは“奇譚”―――類を見ない話し。 自分一人でしかない稀に見る種属である事を、カルブンクリスは“師”であるジィルガから諭されていました。 魔界に唯一無二しか存在しえない―――だからこそ『魔族の異質』とも言われた。 そんなカルブンクリスの血が、世にも珍しい不死の一族の『
「ヘレナ、無事なのかい。」 「はい、特に問題は。」
「そうか、良かった……」
言葉の発し方もつい先刻までのような幼児めいたものではなくなり、ちゃんと流暢に会話ができるレベルまでになっていた。
……だとするならば? 副作用的なものはないのだろうか―――と、そう思っていたらやはり……
「あのっ―――すみません……お腹が空いてきてしまいました。」
「あ…ああそうか、ではいつもの食事を用意してあげるからね。」
「いえ、そちらではなく……今の私が欲しいのは血です。 生温かくこの身を芯から温めてくれる
けれどもまだこの時には気付かなかった……と言うより気付けなかった。 それはまたヘレナも
だからつまり……“前例がない”―――蝕神族の血に反応し、『適合してしまった』と言うならば?
* * * * * * * * * * *
その異状性が発覚しだしてきたのは、それから数十年経った頃の事でした。 それまではヘレナを保護していたカルブンクリスでさえ気付けないでいた……悪く評するなら、ヘレナはその間恩人であり保護者でもあるカルブンクリスを
もう既にこの頃になると、自分の血を受け入れた当初の様な血への渇望は収まりを見せていた―――と思っていました。
けれど近くの街『マナカクリム』まで買い出しに出かけた時に、そこかしこで耳にする“噂”……それは豹変してしまった魔王の事もそうなのでしたが、この近隣で神出鬼没するようになった
「ヘレナ?もうどこかで
すると急に、怯えた表情となり慌てて口元付近に付着していた血の痕を拭うヘレナ。
「(えっ……どう言う事だ?ただ単に血を吸ってきたのならそう言えばいいのに……それをなぜ子供が、自分がやった悪戯が発覚してしまった時のように悪びれ、それでいて申し訳なさそうなこの表情……)」
そして思い当たって来る、ある事案―――だとて性急に追及をしてしまってはならない……だからこそ。
「ねえヘレナ?怒らないから正直に話してご覧。」
「あの……その……も、申し訳ございません~~~」
そんなに厳しく責めたつもりもないのに、自分がしてしまった事がどう言う事であるのか判っていたかの如くに大粒の涙を零して詫びるヘレナ。 そこでカルブンクリスは、マナカクリムで小耳に挟んでいた程度だった噂の本当の意味と、現在のヘレナの状態を知る事となったのです。
では、カルブンクリスがマナカクリムで小耳に挟んでいた噂とは……
『咬み付いた跡は着いていないものの、大量の血を失って干からびた状態の魔獣や魔族』―――
少々気になった部分はあったけれど、総合的に見れば
「ヘレナ、今すぐ私の血を吸ってみせなさい。」
「(え?)そ、それは出来ません!それ以上あなたの血を摂取してしまえば、私は……私はこの世の者ではなくなってしまいます!」
それは……その証言は驚異の何者でもありませんでした。 カルブンクリスはこの時、ヘレナの吸血法を問い質したかっただけなのに……得られた
そう、現在のヘレナの状態はヘレナ本人でしか判らない。 そう……蝕神族であるカルブンクリスの血を取り入れ、適合してしまったヘレナ本人でしか。
「(何てことだ!そこまで考えが及ばなかった……ヘレナは、ヘレナは―――私の血を受け入れた事により……)」
限りなく―――
だからと言って、その事を知ったとてどうすればいいのか。 それはまだ未経験だったことにより判らないでいた―――しかしカルブンクリスは、ヘレナの証言を反芻させていく事により、ある部分に希望を見い出していたのです。
「(ヘレナは
これはひょっとすると……ヘレナに隠された―――ああいや、私が気付けなかった特異性・特質性なのか? それをあの子はその事を知ってしまい、先程私が促せた2度目の摂取を自ら拒んだ……恐らく2度目の血の摂取をしてしまえば、『自分がこの世の者ではなくなる』―――いやそれ以上に私を超えた種属に成ってしまう事を、あの子自身が判ってしまっているのではないか?だが、それが判ってしまえば打つ手ならある!)」
「ヘレナ、大丈夫だ―――総て私に任せなさい。」
「え……?こんな不敬な私に対してもまだ―――」
「お前は不敬でもなんでもないよ、だから安心をし―――その身を私に委ねるのだ。」
これが後世ヘレナがカルブンクリスの事を“
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