2節 ハルピュイアの吟遊詩人

には、何もかもが知らない事ばかりだった。

しかし魔界の“三柱みつはしら”の長達が寄り合い、そこで少なからずながらに知れてきた真実ほんとうのコト……けれどまだ実態までは掴めていない―――だからそこを突き詰める為にと。


{そこで私は、けようと思う。} {ける? 何をですか。} {ミカエル……まさかあなたは、大天使長の座をけ、あなた自らがその原因を探り出そうと?}

{その通りだよガブリエル。} {しかし、それはまた…………}

{もちろんダミーは置いて行くさ。 〖神人〗の長がいないと判って、エデンを踏み荒そうとする不届き者が出ないとも限らない。 それにこの事実を知るのは、今の処3人だけだ。 この秘密が漏れてしまう様なら……もうそこから先の事は言わなくても判っているよね?}

{全くあなたと来たら……しかし考え様によっては最善の手かも知れませんね。} {ラファエル―――お前まで……}

{まあ、考えてもみて下さいウリエル。 “三柱みつはしら”の長ほどの実力者が倒されたら―――それはそれで深刻な話し……ですが。} {そうだな、そこはラファエルも言っての通り。 ミカエル程の実力があれば、そうおいそれとは容易く倒されますまい。 ウリエル、あなたの懸念も判りますが、ここは一つミカエルに任せてみるべきでは?}


〖神人〗のおさ―――【大天使長】自らが、この実態の知れない者の正体を曝きにかかる。 しかもミカエルは『大天使長としてではなく』と言う文言をそこに添えさせていたのです。

しかし、それにそう―――そこをまさにウリエルは懸念をしたのです。

ミカエルの実力を誰よりも知り得る立場にあるウリエルだからこそ抱いた懸念。 しかも後の2人の四大熾天使―――ラファエルやガブリエルは、このミカエルからの提案には賛成のようでしたが、そこもまた一抹の不安材料ともなっていたのです。


すると、そこを見透かされたか―――……


{だったら、君も来てみるかぁ~い?}(ニュフフ) {……はあ?私もですか??} {ミカエル、さすがにその件までは容認できませんよ?} {ラファエル……ああ、そうだとも。}

{ほぉう?『容認できない』とは、その根拠は?} {知れた事です、我ら四人の内二人までも欠けてしまっては、通常業務にも支障が。}

{ふゥ~ん、ならば君は、私一人でこの広大な魔界を巡れ―――と?} {(あ)そう言う事にもなり得てしまいますね。 もしそうだとすれば規程の一部に反する行為になってしまいます。}

{―――と、『労働監督局長』殿も、こう申しているようだしい~?} {ガブリエル?!あなた何故そこで余計な―――ッ!}


元々『秩序』を重んじ履行する―――そうした特徴を持つ種属だっただけに、最近になって制定された『規程コンプライアンス』にのっとった活動をする……とうそぶくミカエル。 そこの処をラファエルはたばかられてしまったものと思うのでしたが。


{ラファエル、今回はどうやらお前の敗けのようだな。 それにしてもミカエル、あなたは今回の事を見越して―――} {そんな言い方は無いじゃないのかな。  偶・発・的―――だよ、飽くまでね。}

{(……)判りました―――けれどこのまま放置してしまっては収まりつきませんし、また下への示しも付きません。 ですので期日を切っておきましょう、そうですね……概ね2ヶ月でいかがです、ラファエル。} {ガブリエル、感謝する!}

{う、なっ?? た……たった2ヶ月で何が判るとぉ?} {ミカエル……? あなたまさか―――“裏”で何か企んでいるのではないでしょうね。}

{そ、そ、そんなはずはないよ~~~は・は・ハ……。}(目が魚の様に…)


そう、この三天使はミカエルの本性を好く心得ていた。

それがガブリエルも言っていた『放置』―――今の様にガブリエルが『期日』という期限を切らないでいたなら、この大天使長様はいつまでもでいるつもりなのだろう……そうした考えを見透かされ、苦しい弁明にはしってしまう“火”の熾天使がいたのです。


それはそうと――――……


{それで?ミカエルはまた何に扮するつもりなのですかな。}

{フフ~ン♪ そこは心配してもらわなくとも、ちゃんと考えているのだよ。

どうだね?。}

{『吟遊詩人』ですが、そう言えばあなたの“歌”には定評がありましたね。} {なるほど、考えたものですね。 その姿で各地を巡り、色々な情報を収集するのだと。}

{我ながら名案だろ~う? それに、『種属』を見て見なよ♪}

{(やけにノリノリだな……)どれ―――ほう、『ハルピュイア』……〖神人〗の眷属の中でも低位と言われている獣人族ではありませんか。 どうしてまた……} {いざ―――と言う時の為にですか?}

{フフフ~ン、その通りだよラファエル。 もし正体がバレそうになっても、同じ“翼”を持ち、更に低位の種属だと知れた時、“私”に行き着く可能性は低いと思っている。}

{そこまで考えているというのならもう私からは何も言えません。 それよりウリエル―――あなたは?}


ミカエルが〖神人〗の長だと言う事を判り難くするようにと取った方策こそが、敢えて繕うと言う≪擬態≫。 つまり低位種属が高位種属を真似るなど、到底出来ない話しではあるのですが、ならばその逆は―――?しかも天使と同様に翼を持つ、〖神人〗の派閥の眷属の一形態を模せれば何も問題はない……そう言ったわけでミカエルに関してはクリアとなったワケなのですが、ならばウリエルはどうしようと―――?


{うむ、ならば私の方は、思い切って派閥から変えてみようと思う。}

{派閥から―――ですか、それはまた何故?〖神人〗であり天使である事を誇りとしているあなたが、敢えてそれを棄てるなど。}

{それは違うぞ、ラファエル―――私は今でも天使である事に誇りを持っている。  だからこそ、敢えてそこから離れるのだ。}

{ふぅむ、どうやらあなたの方でも如何ばかりかの思索・思案があるようですね。  それで?一体どの派閥のどの種属に成ろうと?}

{私が選択する派閥―――それは〖聖霊〗だ。 そして種属は『鉱物精霊レプラコーン』……} {鉱物精霊レプラコーン―――?!精霊族の中でも数が少ないとされている……}

{ふむ、ですがしかし相性は共に“土属性”……良さそうですね。} {それで職業は?}

{取り敢えずの処は『魔術師』で行こうかと思っています。}


このくだりは、〖聖霊〗の方でも魔界変調の原因を探ろうとしていた頃より、ほんの少しばかり以前の語り。

この話し合いを機にミカエルは『吟遊詩人ミカ』へと形態を変え、各地にて色々な啓発を―――そしてウリエルは『魔術師コーデリア』として、種属の坩堝るつぼと呼ばれる『マナカクリム』を拠点として、彼の地に集まりくる情報を収集する為に活動を展開していく事になったのです。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


             そして――――――

         幾許いくばくかの時が過ぎ行き――――――

            運命は交錯めぐる――――――



「見つけたわよ―――」 「―――あなたでしたか。」


しかしながらまだこの頃には、互いを『疑った』だけ……疑っただけで、確証するまでには至ろうとはしませんでしたが。 いつかは互いの事を知り、また同じ道を歩む事になるのが判ったかのようだった。


そう、〖聖霊〗の竜吉公主、〖神人〗のウリエルの“絆”は、この頃より発生させられていたのです。



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