第2話 マグロとカンパチと鮭の黄身醤油あえ海鮮丼と、3種のキノコのすまし汁

 俺は思案の末、家庭用生ゴミ処理機を出した。

 ちなみに電気式もあるのだが、電気を使わないタイプのものだ。

 発電機を出してもいいのだが、問題は俺が使い方を知らないということだ。


 今まで出したものは、その殆どがパッケージや説明書等がなく、むき出しで現れたのだ。

 水、米、塩、コショウ、鶏ガラスープの素、ごま油、片栗粉等は入れ物に入っていたが、茹で蟹はむき出しだった。

 卵と万能ねぎも。


 パッケージがあるとゴミが増えることを考えると、ない方がありがたいが、使い方の分からないものまでむき出しでは困ってしまう。

 いずれ考えるとして、とりあえずは前の家にあったものと同じものにした。


 電気を使わないタイプは微生物の力を利用して生ゴミを分解する為、電気代はかからないが、分解を促すチップや、発酵促進剤なとが、別途必要になる。

 分解したものは堆肥として使えるようになるが、それには電気を使うものよりは時間がかかる。


 俺が使っていたのはハンドルを手で回してかき混ぜることで分解を促す、嫌なニオイの出ないタイプだ。

 こいつで家庭菜園を楽しんだりしていた。

 いずれまたそっちもやっていきたい。


 ちなみに洗い物に一番悩んだのだが、洗剤を使って水を捨てた際に、環境にどう影響を与えるか分からないと思って、米ぬかとヘチマタワシを出して、洗ってペットボトルの水で流した。

 意外とこれで落ちない油汚れはないのだ。


 とりあえず料理に時間がかかる環境を考えると、今のうちに晩飯と明日の朝食くらいは考えておかないといけなかった。

 何よりご飯があたため直せない。

 トースターが使えないからパンも焼けない。


 俺は残ったご飯の半分を、まだ暖かいうちに酢飯にすることにした。

 砂糖とお酢を出す。

 砂糖を小さじに半分、塩少々、お酢を小さじ2の順番で加えながらしゃもじで切るように混ぜる。

 順番に加えることで、ご飯の熱で酢飯が出来るのだ。


 食事の支度をしていると、突然窓から人が覗いているのが見えて俺はギョッとした。

 そういえば、カーテンも何もつけていなかったのだ。

 だからといって人の家を覗くか?

 気持ちの悪い。


 俺はさっそくカーテンと脚立を出して、家の全部の窓に付けることにした。

 ……だがカーテンレールがなかった。

 仕方なくカーテンレール、ネジ山があるタイプの釘、トンカチ、ドライバーを出す。


 カーテンレールを釘で打ち付けるのだが、これがやってみると以外に大変なのだ。

 誰かに支えて貰わないと真っ直ぐつけられない。

 俺は釘を完全に打ち付けずに仮止めし、高さが平均になるよう、何度も釘を抜いて微調整しながらカーテンレールをつけ、ネジ山をドライバーでしめて固定した。


 カーテンをいざつけようとして、カーテンレールのランナー部分に引っ掛けるフックがないことに気付く。

 とことんイチからなんだな……。

 レールを見せる形に取り付けたかったので、アジャスタータイプのAフックを出して、1つ1つカーテンに取り付ける。


 まあ、最初の引っ掛け位置がどこに設置されてるかというだけで、AフックとBフックは実は同じものなんだが、大体のカーテンはAフックに合わせて仕立てられているから、これを選ぶのが無難だ。


 アジャスタータイプは微調整がきくので便利なのだ。

 カーテンの長さを指定せずに出してしまったから、そのほうがいいだろうと思ったのだが、特に調整もいらずぴったりだった。

 色は明るいレモンイエロー。

 まずまずの仕上がりだった。


 ついでに他のもの揃えることにした。

 家は2階建てで、2階に部屋が2つ、1階にキッチン兼リビング、別に部屋がもう1つあった。

 丸太で出来ていながら、中は普通の一軒家と変わらない。


 木で出来た浴槽があったので、ここが風呂だと思うが、蛇口も排水溝も見当たらなかった。

 どうやってお湯をためて捨てたらいいのか。

 トイレも同様で、木で出来た穴はあったが、当然水洗じゃない。

 ここも考えなくちゃならないのか……。


 朝日とともに目覚めたかったので、2階の日の当たる方の部屋に、ベッドとシーツとブランケットと枕を出して、シーツをしいて、ブランケットを乗せた。


 ベッドを置いた部屋にタンスを出して置いたが、ふと、着替えがないことと、洗濯物をどうするかということに気が付いた。

 やること山積みだな……。


 ある程度のものは出せるとはいえ、何もないところからのイチからの暮らしについて、もう少し現地の環境等を聞いておくべきだったな、と今更ながらに思った。

 色々やっていたら腹が減ってきた。

 後で考えることにして、とりあえず飯にしよう。


 マグロの切り身と、カンパチの切り身と、サケの切り身と、青じそ、練りわさび、ドンブリ、使い切ってしまったので卵を出す。

 単純に俺がこの3つの魚を好きだというだけだ。

 他にもあるが、大体刺し身を食う時はこの3つをメインに食べる。


 余った刺し身を使って作れるので、ぶっちゃけなんだっていい。

 刺し身をサイコロ状に切る。まあ、大体1センチから2センチ目安と思えばいい。

 青じそは千切りにする。


 ちなみに青じその茎の部分を切ったあと、そのニオイをしばらく嗅いでしまうくらい、俺は青じそが好きである。

 刺し身を食う時は巻いて食べるのも好きだ。

 子どもの頃からの癖なので、昔は渋いね、と言われたものだが、好きなものとは大人になっても意外と変わらないものだ。


 酢飯を作るのにボウルを使ってしまったので、別のボウルを出す。

 そこに卵黄を1個分白身と分けて入れ、醤油を小さじ2加えてよく混ぜる。

 そこにサイコロ状に切った刺し身を加えてあえる。


 酢飯を丼に盛り、黄身醤油であえた刺し身をきれいに盛り付け、千切りにした青じそを乗せて、練りわさびを添えれば完成だ。

 パックの刺し身が余った時は、大根のツマを刺し身と黄身醤油とあえる時に加えてもいい。


 しかしカセットコンロのボンベをどうしたものか。やがて捨てなくてはならなくなるが、捨てる以外の方法が分からない。

 何か考えなくちゃいけないなあ、と思いながら、俺は残ったご飯をお握りにした。


 クーラーボックスとプラスチックの蓋を出して、クーラーボックスの中に、プラスチックの蓋を被せた皿にお握りを置いてしまった。

 プラスチックの蓋はラップと違って何度でも使えるので、俺はいつもこれを使っていた。


 俺はさらに、顆粒だし、しめじ、えのきだけ、しいたけを出した。

 きのこはいしづきを落として、しめじは適当に手でバラし、えのきは半分に切ってから適当にバラす。しいたけは薄切りにする。

 ちなみに俺は貧乏性なのでしいたけの軸も輪切りにして使う派だ。


 それを火が通る程度にだし汁で煮て、黄身醤油を作る際に余った白身を流し入れて軽く混ぜ、沸騰しないように火を通し、醤油を小さじ2程度、塩少々を加えて、すまし汁の出来上がりだ。

 短時間で作れて、キノコからたっぷりと旨味が出る。


 薄口醤油を使うやり方もあるが、醤油が傷んだら嫌なので、醤油を使うことにした。

 三つ葉を上に乗せると、見た目もキレイだし香りもいいが、茎がかなり長いので、それを使い回すことを、考えないといけないなと思い、今回はやめた。


「──いただきます。」

 夕飯はマグロとカンパチと鮭の黄身醤油あえ海鮮丼と、3種のキノコのすまし汁だ。

 休みの日なら何種類か小鉢をそえるが、普段は具だくさん味噌汁なんかで栄養をまとめてとることにしている。


 凝ってしまうと小鉢が8つも並んだりする。

 俺が作るものを見て、よく付き合ってた女性たちが自信をなくしていたが、作りたい人間が作ればいいと俺は思っている。


 丸投げされると、家事は女の仕事じゃないと怒る癖に、こっちの方がうまいと凹むと言われても、どうしたらいいか分からないし、1人の方が気楽だな、と思ってしまう。


 俺の知る限り、独身の女性は殆ど料理をしない。実家住まいでも、一人暮らしでも。

 結婚してから覚えればいいと思っている人が多いように思う。

 一人暮らしで料理をするのは、圧倒的に男が多い。


 料理を女子力とか言っているから、そんな風に思うのだろう。

 単に生活力の問題で、必要にかられたり、俺のように食べたいものがコンビニや近所の店になければ、作ってでも食べたくなる人間もいる。

 それだけの話だ。


 冷蔵庫があれば使いまわし出来るから、常備菜なんかも作りたいんだがなあ……と思いながら、俺の心は既に明日の食事をどうするかにしめられていた。

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