第三話(二)
《詩織ちゃん、こんばんは。じいちゃん、なれるってサイトで小説を書き始めました。受験勉強の息抜きにでも読んでくれたら嬉しいです》
母方の祖父――
(貞治さんの名前でどうして文雄からメッセージが来るんだろう?)と、詩織ははじめアプリの故障を疑った(文章の細かい見落としは、そもそも貞治と小説サイトが結びつかなかったからだ)。
目を擦って再び確認してみた。
《貞治さん》やはり祖父からだ。
色々とやりたがり屋の人とはいえ、一体どういうことなんだろうと、とりあえずメッセージを返してみた。
《小説を書き始めたって本当ですか?》
《本当だよ》
どうやら本当らしい。
《なれるってネット小説のサイトですよね?》
《そうそう。一番大きなサイトだね》
詩織は眉間を揉んだ。
高齢者が書く小説=紙の原稿用紙に万年筆で書く。自分の頭が固いのか、それとも七十歳でネット小説デビューを果たした祖父が若々しいのか、どちらもあるだろう。
《じいちゃんが書いているのはラブコメです。『スマホもパソコンもないけれど』☓☓☓☓☓☓☓☓》
スマホもパソコンも使いこなす貞治は、URLの張りかたもばっちりだ。
《詩織ちゃんは、最近学校のほうはどうだい?》
《最近は楽しくやっています》
このとき、詩織は「実は自分も……」と返そうかどうか迷った。小説を書いていることを身内に打ち明けてもいいものか。両親には当然まだ言っていない。恥ずかしいから隠しているわけではなく、わざわざ自分から言うこともないか、といずれバレたときには「そうだよ」と普通に言うつもりでいる。
「……貞治さんならいっか」
★★★★★★
「へー、ネット小説を……。面白いじいちゃんだね」
「貞治さんは若いよ」
「おじいちゃんのこと、いつも『さん』づけで呼んでんの?」
「『じいじ』って呼んでたのは、小学二、三年まで。それからずっと『さん』づけで敬語。変かな?」
「いーや、そんなことないよ。柳間っぽくていいと思う。ちなみにじいちゃんのペンネームはなに?」
「
「若草茂ね」文雄は教師が通りかからないか廊下をチラと見てから、スマホで「若草茂」と検索した。
「あったあった。……え、マジ? 激戦区のラブコメで二十位内に入ってる」
「凄いでしょ」詩織は自慢げに言った。
本当に凄いことだ。
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