第21話 強打ではなくフェイント

 本部には、隊長とスーツ姿の人が数人詰めていた。

 簡易で設置したのか、長テーブルが中央に寄せられ、腰を下ろしている。校長が席につき、僕らも促されるままに腰を下ろした。そして、言われるままに夢で見た話しを語っていった。


 隊長は勿論、初めてこの話しを聞いたであろう人たちも、話しの途中から半笑いで聞き流している。それでも最後まで話し続けた。


 隊長が校長へと視線を向け、


「校長。まさか、こんな話しを信じているなんてことはありませんよね?」


 校長は口を真一文字に結んで考え込んでいる。いや、待っている。

 とその時、校長の胸元から音が鳴り響いた。スーツの内へと手を入れ、取りだした携帯電話を耳に当てた。


 相槌を打つ顔が険しくなっていく。眉間には深いしわが寄っている。電話を切った校長は、まるで睨むように強い視線を、隊長へと向けた。


「これはあながち、ない、とは言い切れませんよ」


 校長が電話の内容を語っていく。電話は警察からで、荒手山の東地区にある道路で地割れがあり、水が噴き出しているという。


「警察の見解は、地下水では、ということです」


 校長はノッポさんへと視線を移し、声を飛ばした。


「トシヤ。役所の災対(災害対策統括本部)に連絡して、この辺りの地殻、そうだな、最近の地震情報など確認してくれ」


 すぐに返事をして立ち上がったノッポさんが、固定電話の受話器へと手を伸ばした。


「詳しくなくていい。とにかく早急にだ」


 校長の声にうなすき、短縮ダイヤルをプッシュした。



 やりとりが交わされ、そして、


「折り返し連絡してくれるそうです」


 ノッポさんが受話器を置いた後も、誰もが深刻な顔で口を閉ざしている。

 僕にとったら、そこ(荒手山の東地区)がどこなのかも分からない。だが、この様子を見れば、ことの重大さが伝わってくる。


 数分ですぐに電話のベルが鳴った。その場で待機していたノッポさんが受話器を取った。

 何度かうなずき、言葉を返したノッポさんが受話器を置いた。

 その場で、電話の内容を全体にも聞こえるように声を張りぎみに伝えている。

 それを聞いた校長が口を開いた。


「聞いてのとおりです」見渡すように視線を巡らせ、「ここ数日、体には感じないが地震が続いているということです。しかも、東地区では地下水が噴き出している。ということは、地下で何かが起こっている。それはつまり、地表でも何が起こってもおかしくないということです」

「ですが――」


 何かを言おうとしている隊長の声を立ち切るように、校長が語気を強め、


「もしも、この彼(僕)が言っていることが実際に起こり、多数の犠牲者がでたりしたら、これは大問題ですぞ。ここの誰もが〝事前〟に知っていたのですから、私やあんたらの首が飛ぶくらいじゃ、済まされませんぞ」


 ひと言ごとにボルテージが上がっていく、その迫力に誰もが飲み込まれている。

 隊長は思案するように眉間にしわを寄せ、視線を落している。そこへと校長の鋭い視線が突き刺さっている。周りの人たちの不安げな視線も隊長に向かっている。


「隊長」校長の張り上げた声に視線が上がった。「しっかりせえ! 今、この時だって何が起こるか分からんのだぞ。人を助けることこそ、君らの使命だろ!」


 隊長は唇を噛みしめ、眉間のしわはさらに深くなった。視線が僕へと向かってくる。隙間から漏れたような声が聞こえてくる。


「夢の話しなんか信じられるか」


 視線は離れていく。だが、言葉とは裏腹に、何か吹っ切ったかのように声を飛ばした。


「キムラ。ただちに外回りのやつらにも連絡して、隊員全員を集めろ。避難者の安全誘導を協議する」


 ノッポさんは返事とともに、すぐに部屋から駆けだしていく。その姿を横目に隊長は腕を組み、自問するように呟いている。


「川の氾濫の危険があるかぎり、家に帰すわけにはいかないが……となると」


 そこに校長の声が僕へと向かってきた。


「公民館は確か大丈夫だと言っていましたね?」


 うなずきで応えたその時、隊長と目が合った。だが、すぐにそらされた。


「そうだ。公民館は公共施設だし、多少は備蓄などもあるはずだからいいかもしれんな」


 公民館だって、ここからすぐの場所であり、荒手山の麓であることは変わらない。あくまでも、僕の夢の話しなんか信じないないということなのだろう。

 そんなことなんてどうでもいい。これでみんなが助かる。これで――

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