未来への翼を広げて

日向大地視点

第31話

 部屋に戻った僕を心配そうに見てるモカ。


「大丈夫だよモカ、電話で呼ばれただけだから」

「でんわ?」

「離れていても話が出来るものだよ。友達からかかってきて」


 首をかしげるモカを見ながら思う。

 結城君のこと、友達って言ってもいいのかな?

 話せるようになったけど態度はそっけないし。

 だから結城君が電話をかけてくるとは思わなかった。しかも最初に言われたのはミントのこと。


「なんの話だったと思う? モカのお父さんのこと」

「お父さん?」


 モカの顔が明るくなった。

 ほんとに……お父さんのことが大好きなんだな。


 今日の夕方。

 学校から帰ってすぐ、モカが食べさせてくれたひとかけらの厚焼き卵。モカが来夢で食べたお昼ご飯、ミントが作ったものだ。魔法使いが料理をする姿は想像しにくいけど、ミントはモカのために毎日続けてる。

 僕の家と来夢を行き来出来る鍵をモカは持ってるけど、ミントが作ってくれるご飯を楽しみにしてるんだろうな。


「美味しかったよ厚焼き卵。お父さんの料理、また食べさせてくれる?」

「うん、いいよ」


 嬉しそうにモカはうなずいた。


 モカが喋ったことを書いた手紙。

 母さんやほかの客がいたらミントに話せない。手紙を読んだミントの喜びようはすごかったらしいし、僕を見てどんな反応をするかわからない。だからミントが落ち着くまで来夢には行かないつもりだったのに。


「まさか、一緒に行こうと言われるなんて」


 結城君からの……来夢への誘い。


 結城君の話はびっくりすることばかりだった。

 ミントが魔法を使わないこと、魔法の世界のことや来夢の中にある入り口のこと。結城君が知ってるの、なんで? って思ったけど、全部三上君から聞かされてのことだった。

 しかも三上君は魔法使い。

 僕を追って学校に来てたなんて嘘みたいなことを教えられた。ココに謝りたくて魔法の世界から来たみたいだけど、三上君がココに何をしたのかは教えてくれなかった。


 結城君と約束したのは日曜日。

 目的は三上君がココに謝ることに協力するため。となると三上屋にも行くのかな。佐野君は魔法使いのことも魔法の世界のことも知らない。だから結城君は佐野君に内緒で行くって言うけど。


「モカも一緒に来る? 友達と来夢に行くんだけど」

「お出かけ?」

「うん、来夢の隣に和菓子のお店があるんだ。どんなお菓子があるか見てみようよ。モカのお気に入りが見つかるかもしれないし」

「お菓子? ……美味しいね、お菓子」


 嬉しそうなモカを見ながら思う。

 ミントってば、いつまで僕の家に預けとくんだろう?

 仲良くなれたし、黒うさぎになったモカを母さんはすごく可愛がってる。いてくれてもいいけどずっとって訳にはいかないよね。


「お出かけ。みんな……楽しいね」


 可愛い顔いっぱいに浮かぶ笑顔を前に佐野君を思った。

 何も知らないからって内緒にしてていいのかな。何も言わないのに佐野君の前で笑ってもいいのかな。


「モカは嬉しい? みんなが一緒だったら。楽しいことだけじゃなくて、びっくりすることも嘘みたいなことも、みんなで分け合えたら嬉しい?」


「うん……うんっ‼︎」

「そうだよね、僕も……嬉しいよ」


 佐野君は何も知らないって結城君は言うけど、三上君に暗示をかけられた時点で魔法に関わってるんじゃないかな? 佐倉さんもそうだけど、ごめん……佐倉さんがいたら話がややこしくなる。

 日曜日、佐野君も誘おう。

 魔法使いと魔法の世界。

 佐野君はすぐに馴染むんじゃないかな。結城君は怒るかもしれないけど……それでも。


「僕の友達をモカに会わせてあげる。みんながモカの友達になるんだよ」

「友達? ボクに出来るの?」

「うん、楽しみだね日曜日」







 ***


 日曜日の午後、待ち合わせ場所は桜宮商店街の駐車場の前。僕達の前を通り過ぎていく人達と活気に包まれたいくつもの店。何処からか流れてくる揚げ物の匂い。


「日曜日の商店街ってすごいんだね」


 僕の隣で佐野君がぽつり。モカは僕に隠れながら佐野君を見上げている。

 待ち合わせ場所に最初に来たのは佐野君だった。

 モカを見るなり『弟さん?』って聞かれたけど銀色の髪、ましてやこんなに可愛い子が僕の弟だなんて。


「遅いね結城君。もしかして、僕達待ち合わせ場所間違えてるのかな」

「大丈夫だよ日向君。そろそろ来るかもしれないよ? もしかしたら、お兄さんの仕事の都合かもしれないし」

「結城君、お兄さんがいるの?」

「うん、彼は秘密主義だし詳しいことはわからないけど。背が高くてスーツが似合う人なんだ。……来たよ日向君、あの車」

「え? どれ?」

「真っ黒な大きい車。お兄さんなんの仕事してるのかな、あの車お金持ちみたいじゃない?」


 確かにそう見えるかも。

 スーツを着てるってことは、何かすごい仕事をしてるんだろうなぁ。


「結城君、こっちこっち‼︎」


 佐野君の大声が響く。

 お兄さんと肩を並べて近づいてくる結城君。

 すごいな、お兄さん本当にスーツを着てる。……あれ? 結城君僕を睨んでるけど、佐野君を呼んだの……言い忘れてたかな。


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