第8話

あれ?やっぱりアリアさんが索敵に引っかからないな…

どこ行ったんだ?訓練しようと思ってたのに…

女の人はよく分からないな…


『おい。あっちの方でこの国のやつじゃなさそうな兵士が、女の子攫ってったぞ』


索敵を続けていると、近くを通りかかった漁師っぽいお兄さんたちが、話している内容が気になって聞いてみることにした。


『ちょっとそこのお兄さん。今の話はいつの話?』

『あ?なんだガキか。ついさっきだよ。結構な人数で囲んでなんだか叫んでたから、周りの奴らもかなり注目してたんだがな。どこからか現れた奴らに眠らされて連れてかれたぞ』

『えっと、それはほっといて良かったんですか?』

『衛兵に途中止められてたが、何やら事情があるみたいで、そのまま船に乗せられてたぞ。多分捕まった奴はどこからか逃げ出した罪人か、貴族だろうな』

『そうなんですね。ありがとうございます。これは情報料です』


お兄さんに銀貨1枚渡して、その場を離れ、港に向かう。まだ船が出ていない可能性も考え、追いかけて行くことにした。

まぁ訳ありだろうと思ってたけど、どこかの国の要人か罪人かだったなんて…

面倒だな…

でも恩もあるし、このままは流石にな…


そして港に着くと、結構な豪華な船が止まっているのが見える。

あの国旗はアカリメ王国のものだ。

なんでこんなところに…。

索敵を広げて船を探るとアリアさんが船内にいることが分かった。

こりゃ面倒なことになったな。

助けるかどうかは、情報収集してからだな。

気配遮断スキルを発動しつつ、船内に侵入する。


甲板を歩く兵士にバレないように、闇魔法で船の荷物の影の中に沈んでやり過ごす。

途中何度かアリアさんの話をしている兵士がいたが、どうやらアリアさんはアカリメ王国の第二王女らしい…

大層な身分の方だった…。面倒だ…

もうこのまま関わらずに去りたい衝動にかられるが…

ここで何もしないと後味悪いしな…

とりあえず事情を聞いてみようかな…


そのまま船の中を進み、一際豪華な部屋の前に辿り着く。

索敵でアリアさんの魔力反応はこの部屋からだけど…

目の前には兵士が2人部屋の前におり、中にはアリアさん以外の魔力反応もある。

はぁ…。

じゃあちょっと寝ててもらおうかな。

兵士さんごめんなさい。

空間魔法で兵士さん二人の周りを隔離してっと、空間内の酸素を8%くらいに落として…


『『うん?くっ…』』


倒れる前に空間魔法を消して、二人を風魔法で支えて横たえさせる。

呼吸はしてるな。よしよし。


そしてノックする。

中から何やら返事があったが無視して…

ドアが空いた。


『なっなんだ?子供?』

『こんにちは。アリア姫の知り合いのものなんですけど…』


壮年の男性が顔を出した。この人めちゃくちゃダンディでカッコいいな。とりあえず挨拶をする。


『貴方はどこから紛れ込んだのですか?子供はこのようなところにいないはずですが…。兵士はどうしました?』

『寝ていただいてます。アリアさんに用があってきたのですが、お話しをさせていただきたいのですが…』

『ほう?なかなか奇妙な子供ですな。確かに横たわっているようですが…、殺してないんですね』


あらぬ疑いをかけられたが、まぁ一歩間違えば数分で死んだだろうし、前世じゃ間違いなく殺人未遂だろうな…。転生してから少しそういうところに忌避感がないんだよな。気をつけないと…


『あっ。はい。確認していただいても構いませんよ』

『そうですか。我が国でも精鋭の兵士を後も立てずに昏倒させるとは…』


目の前の子供を見て、男は警戒度を修正して、丁寧に扱う事を決める。


『申し遅れましたが、私はセバスと言います。姫様の執事兼護衛でございます。貴方様が姫様のお知り合いとのことですが、ご用件は何でしょうか?』

『えっと、待ち合わせというか、先程シーサイドで後で落ち合うことになっていたのに、誘拐されたと町の人から聞いて、こちらに伺ったのですか…』

『そうでしたか。姫様はアカリメ王国の第二王女でございます。今回恥ずかしながら、姫様がご乱心なさって、こちらの大陸にお邪魔していると伺いましたので、お迎えにあがった次第です』

『ああ、そうなんですか…。こちらとしてはそういった事情は知りませんでしたので、突然のことで心配になって伺ったのですが…。姫様は今どちらに?』

『今回のことでお疲れになられたのでしょう。お休みになっておりますので、また後日機会があればお会いすることも可能かと…』


まぁアリアさんが王女なのは船内で聞いたので、何となしに事態は理解してるつもりだ。

でも俺としては、いくら王族で立場があろうとも、個人は個人なのだ。ましてや成人したての女性を無理矢理従わさせるのは、ナンセンスだと思う。

しかし、このセバスという執事さんは会わせてくれなさそうだな。

無理矢理寝かせて連れてきたんだろうに…

はぁー。国に仕えてれば色々あるだろうから分からなくもないが…

このやりとりも面倒だな。時間稼ぎして後ろから迫ってきてる奴らから攻撃でもさせるのだろう。

さっさと済ますかな…


『セバスさんでしたか。茶番はもういいです。姫様を拉致って連れて帰って何かあるんですか?それに俺の後ろから迫ってきてる人たち、これ以上近づいたらそこにいる人達と同じ目に合うよ?』

『ふん。所詮は子供の戯言。もう少し我慢すれば寝ている間に港へおろしたものを…。もういい子供が一人消えたところで問題はなかろう。殺せ!』


物騒な連中だな。やっぱりあの国を出たのは正解だったかな。

迫ってきた5人の黒装束の奴らを空間魔法で閉じ込めて、酸素を6%ほどに一気に減らす。

すると男達は駆け出そうとしてる姿勢で、昏倒する。

セバスさんはその間に、どこから出したのかわからない短刀で俺に襲い掛かってきたので、位置交換スキルで後ろの連中の空間内の一部と交換して移動させて、そのまま昏倒させた。

人殺しは良くないよね。

そして空間魔法を切り、呼吸してる事を確認して、身包み剥がして、船内で見つけたロープで縛り上げた。

男が全裸で縛り上げられている光景ってシュールだな…。


じゃあ姫様とご対面としますか。

そして俺はその豪華な部屋へと入っていった。

中にはロープで縛られて寝ているアリアさんがいた。ロープを外してアリアさんを起こそうと思ったのだが、やっぱりお約束はしておかないとダメだと本能が訴えている。


アリアさんから少し距離を取り、小声で…

『おはようございます。現在の時刻は夕方の18時ごろでしょうか?見てください。あのアカリメ王国第二王女が寝ております。今回も気持ちよく起きていただきましょう。

3…2…1…発射!!』

ドーン!!

無駄に魔力を使用して派手な音を立てた!

もちろん部屋の外に音が漏れないように空間魔法で周囲は囲っている。

無駄な努力この上ない!



閑話休題




『えっ!なに!襲撃?』

『おはよーございます』


まだ悪ノリが抜けきらなかったせいか、半笑いで挨拶をした。


『え?スキーム?あれ?ここは?私はセバスに嵌められて…。なんでスキームはいるの?夢?』

『夢じゃないですよ。お姫様。事情を伺いに参りました』


動揺しているアリアさんを揶揄いつつ、返事をする。とりあえずどうしたいのか聞いとかないとね。


『え?スキーム?なんで?やっぱり夢なの?』


テンドンなの?面白くないよ?


『アリアさん。残念ながら、それはあまり面白くないので、真面目にしてもらって良いですか?』

『ちょっと何?ふざけてないわよ!これはやっぱり夢なのね。こんな辛辣な事スキームは言わないわ。可愛くてとても賢くて強いスキームを馬鹿にしないで!そんなんで騙されないから!』


うん?これはなんか恥ずかしいな。アリアさんの俺の印象がダイレクトなんですが…

ほっといて帰るかな…。

いやいや、今まで眠らされてたんだし仕方ないか…。


『えっとですね。俺が間違いなくスキームですよ。そして夢ではありません。現在アリアさんは誘拐されていて、アカリメ王国の船に乗せられてます。俺は貴方が誘拐されたと聞いて、ここにきたんですけど…。ここまでいいですか?』

『え!?あれ?やっぱりスキームなの?でもどうやってここがわかったの?』

『その辺は順を追って説明するので、落ち着いてください』

『この感じはスキームね。わかったわ。スー、ハー。もう大丈夫。続きをお願い』

『それではまず質問に答えますね。ここへは索敵スキルを使ったのと、町でアリアさんらしき人が誘拐された。と聞いてここへきました。ここに来れたのは索敵スキルでこの船にアリアさんの魔力反応があったので、正確な位置を特定してきました』

『わかったわ。そんなスキルも持ってたのね。それでここは船ってことだから、私は誘拐されてここに来て、どうやって貴方がこの船に入って、私のところまで辿り着けたの?』

『えっと、護衛の人とか、黒装束の人、後セバスって人を昏倒させてここまで来ました』

『昏倒?殺してないの?』

『そんなことまでしませんよ。ただ寝ていただいてますけど、呼吸しているのを確認したので問題ないと思います。それでアリアさんはこのまま王国に帰りますか?それともセバスさん達だけ帰って頂く感じで良いですか?』

『なんだか今日のスキームは意地悪ね。もちろん帝国に残って、スキームの訓練を受けたいわ』

『そうですか。アリアさんはこの国に残りたいんですか。でも残るってことはお姫様の生活には戻れなくなるかもしれないですよ?良いんですか?』

『くどいわ!私はもうあの生活には戻りたくないの。私の代わりなんていくらでもいるの。それに………………………………


どうやら触れない方が良かったようだ。出てくる不平不満を聞かされることになった。



『そんな生活嫌でしょ?私は少なくとも嫌だわ!』

『はい。そうですね。わかりました。それじゃあ、えらい格好にはなってますが、セバスさんに挨拶でもして出ていきましょう』


そのあとセバスさん達を見たアリアさんが、悲鳴をあげて大変だったのは、仕方ないよね。










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