第6話

港町に俺たちは戻ってきた。

時刻は夕方だ。海へと沈んでゆく夕陽を見ながら、町へと戻った。この町はポンジャ帝国シーサイドという町だ。なんとも安直な名前だが…

これもまたよし。


『凄い騒がしいわね。町の検問所の衛兵も心ここにあらずって感じで、適当だったし。まぁ簡単に入れたのから良いか。余計なことは避けたいしね。スキーム?』

『ああ。しかし凄い賑わいだな。まぁあれのせいだろうけど…』


創造神様の計らいで、色々と変わったことで町の人間やら、国の人間で対応も様々だろうしな…。特にがっこうなんかは酷いことになってそうだしな。今まで提唱してきたことが無駄になったと言っても過言ではないしな。

ご愁傷様…


『おい!聞いたか?職業適性無くなったんだってよ。しかもスキルはなんでも初めから覚えられるって話じゃねーか…』

『それもそうだが、スキルの使用頻度とか、経験値の表示も無くなってるんだとよ…。俺は閲覧ないから誰かに鑑定してもらうしかねーからな…』

『こりゃ偉いことになったな。常識がひっくり返っちまったよ…』


などなど、そこかしこで今回のことが話されている。仕方ないよな…

今まで信じて疑わなかったことが、すべて初めから無かったことになった…

いや、元々の情報が改めて開示されたとも取れるか…

俺は必要な事と、要らないものの取捨選択は必要だと思うがな…


『とりあえず冒険者ギルドにいきましょうか?』

『うん。そうしましょう。冒険者ギルドもこんなような感じだろうけど、受付くらいはまともな状態だと良いですね…』

『はぁ。そうね。そうじゃないと今日のご飯がまた果物になるし、野宿になるわね…』


そうこうしているうちに、剣と杖を交差した看板が建物の上に乗っかっている。いかにも冒険者ギルドっぽい3階建ての建物の前に着いた。


『これが冒険者ギルドですか?』

『そうよ。この剣と杖のマークが目印ね。どこの国のどの町にも大抵はギルドが設置されてるわ。中は酒場と併設されてて独特の匂いがするの』


俺は異世界初冒険者ギルドにきたことに浮かれつつも、アリアさんに確認を取り、楽しみを膨らませた。

このあとはお決まりの酒場で酔っ払ったベテラン冒険者に絡まれるって言うテンプレ付きでオネシャス!!


ギルドの扉は開放されていて、基本的にはずっと開いているそうだ。

アリアと中に入ると、外からでも聞こえたが、今回のことの問い合わせが殺到しているようだ。


『おい!これはどうなっている。今までの俺たちの苦労はなんだったんだ…』

『今まで魔法は諦めていたが、教われば覚えられるってのは本当か?』


などなど受付なのか、窓口に冒険者が詰めかけている。これじゃいつになったら俺たちの番が回ってくる事やら…

そこに禿頭で、筋肉の塊みたいなガタイの大男が、受付の脇から出てきて、深呼吸したかと思うと…


『お前らうるせぇー!!静かにしやがれ!こっちだって今日の今日で情報の整理が追いついてないんだ。今聞かれたって、わかんねーもんはわかんねーんだよ。国から近いうちお達しがあるだろうから、それ以外のようなない奴は帰れ!!』


あたりは静まり返り、禿頭の男に向かって文句の一つでもでるかと思ったが、誰も文句も言わずに従って動き出した。


『ギルドマスターが言うなら、仕方ねーか…。お前ら帰るぞ』

『ああ、怒らせたら後が怖いしな…』


思い思いに小言を言って帰っていく。ギルド内の喧騒は晴れ、受付の前が空いたので、そこにアリアさんと受付に向かっていく。

あれがギルドマスターか、確かに凄い圧力と確かな実力を感じた。

俺たちには関係ないか…


『すみません。素材と魔石の買取お願いしたいんですけど良いですか?』

『あっ、はい。それではこちらにどうぞ』

『じゃあスキーム出して』

『うん。ここに出せば良いの?』

『坊やが持ってるの?ここのカウンターに出してね。あなたは冒険者じゃないわよね?』

『分かりました。出しますね。はい。こちらのアリアさんが冒険者で僕は面倒になってるものです』


受付の人もかなりの美人だな。やはりギルドの受付は花があるんだな。異世界最高だぜ!

言われた通り、カウンターに空間収納から今日の収穫を出していく。


『うん?坊や今どこから出したの?』

『空間収納からです』

『ちょっと待って、あなたいくつ?お名前は?』

『僕は7才ですよ。スキームって言います』

『そう…。アリアさんこの子あなたの弟か何か?』

『いや、最近面倒見ることになった子です。凄く良い子なんですよ』

『そうなの?良い子でしょうね…。そんな年で魔法が使えるわけだし、しかも空間魔法…。ここじゃまずいわね。ちょっと個室に移動しましょう』


言われるがまま、個室へと案内される。そこで少し待たされると、さっきの禿頭の筋肉マンが、さっきの受付嬢と共に入ってきた。


『待たせたな。大事な話がある。お前が空間魔法使ったって言うガキか?』

『ギルドマスター!そんななりでそんな言い方したら、スキーム君が怖がっちゃうでしょ!?このアホマスター!!』

パコン!!


小気味いい音がして、厳つい筋肉マンは頭を抱えている。


『いたっ!悪かったよ。すまないな坊主。まずは自己紹介からだな。俺はギルドマスターのジョージだ。宜しくな。お前はスキームで良かったかな?

そんでそっちのねーちゃんはアリアでいいな?』


叩かれた頭をさすりながらギルドマスターが自己紹介をしてくれた。


『はい。俺はスキームです』

『はい。アリアです』


なかなか最初の感じから、迫力のある感じで緊張気味に答える。しかし何かした覚えはないのだが…


『コホンッ!ギルドマスター表情が怖いです。緊張しちゃってるじゃないですか!申し遅れました。私は受付嬢兼副ギルドマスターをしています。マールと申します。以後お見知り置きを。ではマスター、優しくお願いしますね』


副ギルドマスターのマールさんか、兼務するほど忙しいのかな?しかし、佇まいは隙がなく、そこら辺のチンピラなら簡単に放ってしまいそうだと感じた。そして、ギルドマスターのジョージさんをひと睨みして自己紹介してくれた。

ギルドマスターからの迫力が少し緩和された感じがした。


『度々すまねー。今回色々あって余裕がなかったんだ。ところでスキーム、お前は空間魔法が使えるようだが、どうやって覚えた?』

『えっと、父が魔導士だったので、父から教わりました(実際はステさんから教えてもらったんだけど、これが無難だよな)』

『ほう?古代魔法と言われてる空間魔法を使える親父がいたのか…。さぞかし有名な魔導士だな。お前の親父はなんで名前だ?』


古代魔法?知らないぞそんなこと!ステさんそんなこと一切言ってなかったじゃん…。

まずったな。やべーかもしんねー。

どうすっかな?


『えっと、言わないとダメですか?父とは今は離れ離れですし、あんまり迷惑かけたくないんですけど…』

『チッ!上手いことはぐらかすじゃねーか?お前本当に7才か?まぁいい。とりあえずお前が持っている空間魔法は今は失われたものとして考えられている。いや、考えられていただな…。お前さんがそのスキルを持っているってしれたら、この国どころか、どの国行っても誘拐されて情報を洗いざらいはかされるか、もしくは…消されるかだ』

パコン!!

『いたっ!何しやがる』


また副ギルドマスターがギルドマスターの禿頭を容赦なく殴った。


『アホですか?さっきから言ってるでしょ?子供相手にそんな圧力かけてどうするんですか?ましてや、この状況でそれって…。はぁー。ごめんねスキーム君。今日世界の有力者たちに神託がおりて、色々な変化が急激に起きているのは知っているかな?』

『はい。町へ入ってきたときに色々な所でそんな話を耳にしました』


あたかも今日知ったかのように振る舞いながら答える。


『そうね。そんな状況でかなり世界は困惑しているし、情報を統制しようとしているわ。そんな中、あなたは失われていたであろう空間魔法を使って見せた。これは何か今回の事に、起因したものがあるのではないかと踏んでいるの。それと、あなた自身の身の安全を守るための警告でもあるの。良い?絶対に他の人の前でその魔法は使ってはダメよ』

『そうなんですね。迂闊でした。今度から気をつけます。あと俺は今回のことは今日知ったので、起因したものは特にないんですけど…』

『そう。悪魔でも知らないと言うのね。ちなみに今回の神託は、このギルドでは私とマスターに、その他にもこの町の大商会のトップや、領主なんかにも神託は降りてるわ。今回のことで職業適性を行なっていたことが無意味だと言うことがわかり、失われていたであろうスキルも、あったという事実が判明したの。これがどういう意味かわかるかしら?』

『なるほど、じゃあ僕は失われていた魔法を、以前より知っていて、尚且つ使えるのはおかしい。だから、俺は今回のことを何か知っているのではないか?っていうことでしょうか?』

『ええ。その見解で間違い無いわ。だからこうしてあなたに警告と、そして話を伺おうってことになったの。不自然かしら?』


はぁー。面倒なことになってるじゃ無いか。もしかしてユニークスキルもバレたらやばいんじゃ無いか?これはちょっと想定外というか…

ステさんの、情報を精査していかないと偉いことになるかもな…


『スキーム。スキームは御使様なんだからそういえば良いじゃ無い。なんだか話こんがらがってよくわからないけど、スキームが御使様だっていえば丸く収まるんじゃないの?』


今まで黙っていたアリアさんが突然爆弾を、落としてきた。

やばすぎる…

口止めしとけば良かった…。


『うん?嬢ちゃんどういうことだ?御使様?それは神の使いってことであってるのか?』

『うん。スキームは凄いんだから!それと…ムゴムゴ…』


アリアさんが余計なことを口走るので、ついつい口を押さえてしまった。

これは詰んだな…。


『アリアさん話がややこしくなるからやめてください。他言はしないって言ったじゃないですか!?

はぁ〜。話さなきゃ良かった』

『スキーム君、やはりあなたはかなりの重要人物のようね。悪いようにはしないからお話してもらえないかしら、いや、していただけませんか?の方が良いかしら?』

『なんだ。やっぱりただのガキじゃなかったか。洗いざらい話すまで逃さないからな』


パコンッパコンッ!!


あっまた殴った!あれが原因でギルドマスター禿頭になったんじゃないだろうか?


『いてぇ〜!だからなんでそんなに…。ヒィッ…』


副ギルドマスターがすごい冷たい目線でギルドマスターを睨んでいた。怖い…。


『アホマスター。いい加減にしていただけませんか?この子が御使様だった場合、この子がそれだけの能力なはずないでしょ?逃げられたら、もうあなたはこの国では生きていけないわよ?こんな重要人物は国で保護するような対象よ。アホはほっといて話をさせていただいてもいいかしら?』


なんだか、気の毒に感じるぐらい部下に罵られてんな…。その気持ち俺も分かるよ。後輩に舐められて辛い思い俺もしたもんな…。


『はぁ。仕方ないですね。答えられる範囲でお答えしますよ。ただし他言は無用でお願いします。アリアさんみたいでは本当困るんで…』

『ムゴ…、ムゴ……』


アリアさんが何か涙目で訴えているが無視無視。


『もちろん。それは守ります。契約魔法で契約しても構いません』


契約魔法?知らないな?あれか?約束を魔法で縛って破ったら何かペナルティ発生するやつ!

【あなたの考えている通りで、大方間違いないわ。契約の内容にもよるけど、約束を破った場合死ぬこともあり得るわ】

そうなんだ。恐ろしいことを言ってくるもんだな。しかしこの場合俺にはペナルティなんてあるのか?

【内容によってはあなたにもペナルティを課すことは可能よ。でもこの場合あなたにペナルティになるようなことを契約しないでしょうね】

なるほど…。悪くないか…。でもどっちにしても粗方向こう側も俺が知っているような事は知ってるんだよね?

【秘匿しているものもあるようですが、だいたいあなたと同じような事は聞かされているはずです。崩壊が近づいてることくらいは知っているはずです。原因は知らないようですが…】

あれは知っちゃうのはまずいと思うよ?


『……契約魔法ですか…。うーん。まぁいずれみんな知るんでしょうし、もしくは知ってるんでしょうから、なくても構いませんよ。ただ俺がこの話をしたら、お願いがあります。それは俺に冒険者の資格を与えて欲しいんです。これから強くなるためにはどうしても必要なので、それが叶うなら良いです』

『そうですか。ですがこちらは約束を反故にするつもりはないですのでご安心ください。それとその件に関しては、そう言った例は以前にもあるので、そこのアホの権限でなんとかします。構いませんよ。

それではその御使様というのは何を神から賜ったのですか?』

『俺がギルドマスターだよな…。』


まぁそこから俺が話せそうな事は話した。あとスキルの取得の仕方も一応教えておいた。これはもちろんステさんにも了承を得ている。俺一人で今後頑張っても、誰かの助けは必要な時は必ずあるからな。

今のうちに貸しを使っておこうということも込み込みだ。それと冒険者の資格を得られたのは大きな収穫だ。これでなんとかなる。


『こんな所ですかね。よろしいですか?』

『こんな有益な情報まで、そしてスキルに関しては開示しても構わないと…。なんてことなの。これで今まで停滞していたダンジョン攻略も軒並み進むわ。ありがとうスキーム君。いや、スキーム様。今後ともよろしくお願いします。何か御用の際は私かアホに言っていただければ、できる範囲のことはさせて頂きますので!それと今回の素材の回収と情報提供代で、白金貨10枚としますのでお受け取りください』


凄い感謝のされようだな。とりあえずユニークスキルと、器の昇華、邪神以外の話はしていないが、それ以外は粗方話せたと思う。

協力関係が築けるのは助かるなー。

それにお金が貰えたのはデカいな!訓練に明け暮れても大丈夫そうだ!


ちなみに

鉄貸1枚(1円)

鉄貸100枚=銅貨1枚(100円)

銅貨100枚=銀貨1枚(10000円)

銀貨100枚=金貨1枚(100万円)

金貨100枚=白金貨1枚(1億円)

がこちらの世界のお金の価値だ。


なので今回の報酬と合わせて10億円!こりゃ前世の年末の宝くじの前後賞込みよりいい報酬だ!

宝くじ当てたいと思っていた時期もあったなー。

まさかこんな形で億万長者になれるとは…

ふふふ…


『分かりました。では今後とも宜しくお願いしますね』


波乱はあったが、なんとか乗り切ってギルドとの繋がりもでき、資格も手に入れた。

これからは訓練だな。

そしてアリアさんと共に宿を取って、長い1日を終えたのだった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る