(3)最強である

紫色の髪のエルフの美女はその光景を見て口を開く。

「流石はリエリさんです、この人数に一瞬で幻術の魔法をかけるなんて」


「それ程でもありません、それに飛行艇を操縦するここで暴れる訳にも行きませんから。これが1番スマートな方法だと判断しました」


飛行艇を操縦する空賊達は、自分達が魔法の支配下にあるとは全く気付いていない。

いつも通り頭に言われるまま飛行艇を操縦してるつもりなのだ。


「……しかしもしもここに行く様に言われたのがイオとリエリでなければどうなっていたか」

「ユーリさんとシアさん、ラブーンさんも遠慮なく攻撃魔法を使いそうですね」


イオと呼ばれたエルフの美女の頭には銀髪と赤髪と黄緑色の髪をした女性達が登場する。

ハァッと呆れる様な溜め息をつくイオである。


「まあそこを考えてあの人……アオノさんは私達にここに来る様にと言ったのでしょうね」


「ええっその通りかと、逃げた空賊のリーダーの後始末についてもご主人様が動くでしょうから問題在りません」


イオとリエリは互いが揺るがない信頼を向ける相手の事を考えているとバキッと言う音がする。司令室の扉を蹴破る者がいた、当然空賊である。


「オイッ!頭がいねぇぞっ!」

「代わりに女がいる!2人ともすげぇ美人だ!」

「1人はエルフか!?魔法を使ってくるかも…」


イオが空賊達が司令室に入り込む前に魔法を発動させた、恐るべき早技である。

「……眠りなさい。スリープフォール」


「フッ貴女も数人に1度に魔法を使えるではないですか、それも睡眠魔法。中々に高度な魔法です、腕を上げたましたねイオ」


「フフッあの人と共にいるとまだまだ自分の未熟を痛感するばかりですから、日々私なりの努力を重ねる事を心がけています」


ドサドサと倒れ眠る空賊達は完全に空気、2人の美女の会話は続いた。



◇◇◇空賊の飛行艇・緊急脱出部屋◇◇◇



この飛行艇には空賊の頭しか知らない部屋がある、それは飛行艇の船体の1番下にある部屋で広めの空間である。


そこには個人様の飛行艇が配備されている。

つまり空賊の頭が何かあった時にそれに乗って逃げる為に準備しておいた部屋だ。

船体の底が開く様になっており、飛行艇に乗り込めば直ぐに逃げられる……。


(なっ何で、ここに俺以外の人間が!?)

「なっ…何者だテメェッ!何処からこの部屋に入った!」


この部屋に入るには、空賊の頭だけが持っている鍵が必要だ。

しかしその男は平然とその部屋の中に入っていた、そして静かに立っていた。


その背後には破壊された飛行艇が無残な姿を晒している。


「ああっそれは私の転移魔法でこの部屋に移動しただけですよ。アナタは飛行艇が襲われたら部下達は全て見捨ててここに来るだろうと思ってましたから……」


黒髪黒眼の中肉中背、年は三十代を半分以上過ぎたおっさんで、顔立ちは平たくのっぺりとしてる。この世界では見かけない顔立ちの男だ。


それもその通りである、この男の名は青野只人あおのただひと、とある島国から来た異世界人である。

当人は1度死んだので異世界転生だと転生を受付したとある存在に説明された。


しかし転生なのに元のおっさんの姿のままな事には納得していなかったりするが、それはこの場では何の関係もない話である。


大事な事は……。


「よくも俺の飛行艇を!何のつもりだ!?」


「何のつもりって……何の罪もない人々を襲ってるのはアナタ達の方ですよね?」


「だっ黙れ!俺達は空賊だ!襲って奪うのが仕事なんだ!それの何が悪い!」


青野の顔に呆れた笑みが浮かぶ、トンデモ理論を話す阿呆あほうを相手に言葉で説得するのを早々に諦めた。


「襲って奪う事を仕事だなんて言うわけがないでしょ、悪い事をしてきたから私達がここに来たんですよ?まぁ向こうの飛行艇に偶然居合わせただけだすがね」


要するに空賊達は運がなかったと言う事を青野は言いたい。


「うっうう、うるせぇんだよぉおおっ!俺の……このダイザーク様の空賊人生がこんな所で終わってたまるかぁああーーーーーーーーーーーーーーー!」


まるで子供に言って聞かせようとする青野に、癇癪かんしゃくでも起こした様にもの凄い逆ギレをする空賊の頭ダイザーク。


腰のダガーを素早く抜くと一気に青野に襲いかかった!。

大きなガタイには似合わないスピードで一気に距離を詰めてダガーで連続攻撃を青野にかます。


「オラァッ!オラオラオラオラオラオラオラオラーーーーッ!」


「………………ハァッ」

(オラオラの連呼はやめてほしい……それは三下の犯罪者が使って良いセリフじゃないんだよ)


ダイザークのスピードもダガー攻撃も、常人には躱せないレベルの攻撃だ。しかし青野はのほほんとした顔のままそれらを全て回避していた。


この男の身体は転生する際にチート能力を与えた存在が用意した特別製、ほぼ人類枠に収まる代物ではなかったりする。本人もその事に薄々気付いているが気付かないフリをし続けている。


青野は異世界から来た男だ。そんな者が1番大事な事、それは………。

「これで、終わりだ──」

「…すみませんね、ここで空賊人生が終わるのは貴方です」

ダイザークの渾身の一撃をあっさりと躱す青野。

そして拳を握り締め………。


バキッ!


「おびゅっ!?」

「……………」


ダイザークの顔面を躊躇なく殴り飛ばした。

吹っ飛んだダイザークは飛行艇の壁に激突して気絶する。壁にめり込んでいた。


青野は異世界人である、それもいわゆるチートな方の異世界人で……とても強いのだ。


最強である。

















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