第2話 新たな仲間

「こ、これは新感覚だ! カズヤ、君も試してみると良い!」

「何言ってんだ! 早くそこから降りてこい!」

俺とセレナは今クエストをこなしている。クエスト内容は【ナメクジタワー】を消すというもの。受付さんによると【ナメクジタワー】は雨の日の翌日になると大量に発生するオオナメクジが一箇所に集まることできる特殊条件モンスター群らしい。普段は温厚なオオナメクジだがこの【ナメクジタワー】の状態になると理由は不明だが凶暴性が増すとのこと。ギルド職員から貰った塩を一匹に少量かけさえすれば自然にどこかに行くらしいので簡単なクエストだと思い受注したのだが……。

「この粘液…………ドラゴンのよだれとは一線を画すものがあるな。………………なあカズヤ、これ一匹持って帰れたりとかしないか?」

「ダメだ」

この女は一体何を言ってるのだろうか。というかこいつお荷物にしかならないんじゃないかとさえ思えてきた。このクエストに限らずセレナの奇行は俺に悪影響を与えてきた。ゴブリンの群れにロクな装備もなく突っ込むわ、明らかに格上のモンスター相手に挑もうとするわ……散々な目に遭った。セレナが先程言ったドラゴンのよだれというものも近くの農村に突如現れたドラゴンの様子を見に行くというクエストの際に見るだけで良いものをわざわざ挑み、食べられたときのことだ。そのせいで大人しかったドラゴンが暴れ、町が半壊したんだからたまったもんじゃない。はぁ……報酬を俺に七割配分とか言ってたがそもそもクエストすら成功せずに報酬が手に入らないとかあるんじゃないか?

あーこんなことなら……。

俺はセレナとパーティーを組んだことを後悔しながら粘液まみれになって喜んでいるあの馬鹿を蔑む目で生暖かく見守る。

「な、何のつもりだカズヤ! こんな粘液塗れになっている私を助けようもせずただただ見ているだけだと…………! 良いぞ、もっとやれ!」

「………………」

そうだ、セレナが囮になってるうちに塩をかけてしまおう。そうすりゃ俺にオオナメクジが攻撃することも無さそうだしクエストも達成できる。しかもセレナも満足する。よし。俺は群れをなして一つの塔を空高く作り上げているオオナメクジたちの中に紛れるセレナに向かって。

「おーい、セレナー! そのままオオナメクジたちと戯れてろー。その間に俺はクエストこなしてるからー」

「わ、分かった! …………でもそんなに急がなくてもいいぞ」

ニヤニヤしながら俺に手をふるセレナの身体はもう粘液のせいでテカテカと光るどころかズクズクになっていた。身体を動かすと粘液が飛び散る。どうしたらあんな娘に育つのか……親の顔が見てみたいってのはこういうときに言うべきなんだな。

俺はポケットから受付さんから受け取った岩塩を取り出す。オオナメクジ達に気付かれないようにゆっくり忍び寄るとセレナが。

「あ、何してるんだカズヤ! 私はまだこのナメクジくんたちと戯れていたいんだ。邪魔しないでくれるか?」

と言って手を勢いよく振って俺に粘液をかけてくる。

「ちょ……おい…………やめろ! 俺達は今仕事してんだよ! いいか、このクエスト成功しなかったらお前の鎧売り払ってやるから覚悟しとけよ」

「私が悪かったからやめてくれ。この鎧を売られたらモンスターと戯れられなくなってしまうからな」

そこかよ。

「さあ、塩かけてさっさと帰るぞカズヤ」

「へいへい、分かったよ。今かけるからそのままでいてくれよ」

一匹のオオナメクジのお尻辺りに塩をかける。が、全く反応がない。どうしたんだ、量が足りなかったのか?

「カズヤどうした? まだ終わらないのか」

「いや、それが変なんだよ。かけてもどこか行かないし、ん? あれ? なんか塩かけたところの色変わってきたか?」

塩をかけたところが何やら赤色に変わっていきみるみるうちに本来の肌色をしたオオナメクジの体が真っ赤に染まった。

おいおい、なんだよこれ。

「カズヤ、こいつらの身体どんどん熱くなってきてる! ちょっと熱すぎて死にそうだ!」

あれは興奮してんのか? してないのか分かんないな。何しろ早く助け出さないと。 いや、でも俺にはどうすることもできない……。オオナメクジの身体から蒸気が出ている。あのセレナが死にそうと言ってるし相当熱いのだろう。セレナでダメで俺が我慢できる筈がない。俺がセレナを助け出す方法を思案しているうちに。

「私はもうダメだ…………」

と、セレナは顔を真っ赤にしながらパタリとオオナメクジの上に倒れ込む。

俺では助けられず、セレナはグロッキー状態。そんな絶体絶命の時、とてつもない雷鳴と何者かの叫び声と共に蒼いイカズチが飛んできた。

碧雷ルラキスボルテージ!」

その雷は赤く変色し、蒸気を発つオオナメクジたちに命中し跡形もなくナメクジたちを一掃した。

初めて見た魔法に声も出せず俺が驚いていると。

「そちらの騎士の方、多少のダメージはありそうですが大丈夫そうですね。あなたも怪我はないですか?」

と、言いながら一人の魔法使いらしき少女が歩いてきた。

肩に掛からないくらいの長さの髪に赤髪隻眼。自分の体くらいの大きさのロッドを持っている。体躯が小さいせいか服がブカブカ過ぎて袖と裾が地面についている。そんな少女の袖を掴んでいる血色の悪い少女が一人。魔法使いらしき小さな少女に隠れているほどの年齢では無さそうな見た目なんだが……。

とりあえず俺は助けてもらったお礼をするために返事をする。

「ああ、問題ない。助けてくれてありがとな。あ、そうだ。大丈夫かセレナ、必要だったら街まで運んでやるけど……」

オオナメクジの熱でダウンして這いつくばっているセレナは。

「だ……大丈夫だ。久々の熱攻めでびっくりしたが……問題ない」

と言い俺の感情を心配から無常に変えた。もはやここまで来ると才能だと思う。

「君たちはなんでオオナメクジタワーに塩なんてかけたんだ?」

「え? だってギルドの受付さんに塩をかければいなくなるからって言われたから……」

少女は驚き、おでこに手を添えながら首を振ってやれやれという表情を浮かべる。

「全くあの受付はまたそんなことを言ったんですか……。オオナメクジ自体に塩をかければ受付が言った通りにどこかに消える。しかし、オオナメクジタワーの状態になれば別です。あの状態はいわば興奮状態。そんなときに刺激になる塩をかければ過剰反応が起こって熱が発生します。つまりいなくなるどころかもっと興奮して危険度が増すんですよ」

あの野郎……! やっぱり顔が整ってドスケベなお姉さんは人生イージーモードで楽してきたから馬鹿なのか!?

これだから美人ってのは……。

「………まあ何にせよ助かった。それでなんだが後ろにいるそいつは何なんだ?」

俺は血色の悪い少女に指をさした。少女は少しビクついて身を隠す。そんな少女を安心させるかのように魔法使いの少女は頭を撫でると。

「よしよし。この子は私の相棒なんですよ。いつもこの子には助けてもらって感謝してるんです。今さっきの魔法だってこの子がいないと撃てなかったんですから」

「こいつがいないと魔法が撃てなかった? どうしてだ?」

暗い顔をして少女は話しだした。

「実は私…………魔力が無いんです。詳しく言うと魔力を入れるための場所はあるんですが毎回ポーションで魔力を補給しないと魔法が撃てないのですよ。それでこの子の力の【魔力吸収ドレイン】を使って毎回魔法を使うたび補給してもらっているんですよ。これがまた両方に負担がかかって体力的にしんどいのですが戦えるのは私しかおらず仕方なく……」

「そうか、苦労してるんだな。…………そうだ俺のパーティーに来ないか? そうすればクエストのたびに魔法を撃つ必要もないし報酬は山分けになるけど負担は減らせるはずだぞ」

これで魔法が使えるやつが入って、遠距離攻撃ができる。そうすれば無理にセレナを最前線に行かせる必要もなくなって俺の精神的な負担も減る。この子たちがしんどいときはセレナと俺が戦えば良いしな。そうすればこの二人の身体的な負担も減る。正にウィンウィンな関係だ。

あれ? でも一体何から魔力を吸収してるんだろう。

俺は気になってそのことを聞いてみると驚くことにこの血色の悪い少女はアンデット使いということが分かった。アンデットを呼び覚ましそこから魔力を奪い魔法使いの少女に注入。そして魔法を撃つらしい。何とも回りくどい。そして俺は考えた。待てよ? 俺の個人能力オリジナルスキルって俺じゃ使えない魔力が大量にあるんだよな。それならアンデット使いのこの子を使って魔力をあげれば良い感じのパーティーバランスになるな。俺はこのことを二人に提案すると。

「お断りします」

「あれぇ?」

なんと断られてしまった。

「だって……だってそんなことをしてしまえば、この魔法を撃つ時にかかる身体の負担が半減してしまうじゃないですか!」

あれ? ひょっとしてこの子…………セレナと同じ種類の人間か?

「何がいいんだよ、身体に負担がかかるんだろ? 良いわけな……」

「良いに決まってるじゃないですか! あのじーんと腰にくる感じは堪りません!」

俺の話を遮りやがった……。

………………決定だ。この子はセレナと同じでポンコツな匂いしかしてこねぇ。そうと決まれば……。

「へーそっかそっか! じゃあ仕方ないな! しんどいだろうが頑張れよ。応援してるからな。じゃ、そういうことでまた会おう! 行くぞセレナ!」

俺は倒れてハアハア言っているセレナを担ぎその場を後にしようとした時。

袖を捕まれ、瞬発的に後ろを振り返ってしまった。

「待ってください待ってください。私とこの子、あまり経済的に良い状況じゃないんですよ。だからパーティーに入れてもらってあなたの魔力を乱用して魔法撃ちまくって扱き使って貰えるならパーティーに入ります」

ついに本性を現しやがったなこの娘……。

「いや良いから、もう別に良いから」

「そんなこと言わずにさあ私とこの子をパーティーに!」

「本当にもういいから…………あっ……ちょ……ズボンを引っ張るんじゃねぇ!」

しつこくパーティーに入れろとすがってくるこの娘は俺のズボンを掴んで離さない。おまけに泥だらけになって俺が虐めてるみたいに客観的に見れば見えてしまう。

「あー! もうしょうがないな、入れてやるから離してくれ!」

俺の言葉を聞いた二人の少女はパッと手を離し二人でニコッと笑った。

「これからよろしくお願いします!」

魔法使いの少女がこれから仲間になる宣言を高らかにしている横でペコリと頭を下げてアンデット使いの少女もよろしくお願いしますと言わんばかりに頭を下げた。

「あっ報酬は活躍に応じて上げてくださいね」

畜生…………これだから女ってのは……。

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