#05 彼女が耳元で囁いた
小学校に入学してからも、僕たち二人は相変わらずだった。
学校でも登下校でも、二人だけの時間を過ごした。
3年生のある日、学校で玲の結っていた髪留めが取れてほどけてしまったことがあった。
いつものように立ち尽くして声も出さずにポロポロ泣いてしまったので、見様見真似で僕が結ってあげた。
廊下の手洗い場まで連れて行って、鏡を見ながらあーでもないこーでもないと言いながら玲の黒くて柔らかな髪をまとめようとするのだけど、中々元通りに出来なかった。
元の髪型は僕には難しいと判ったので、後ろで全部まとめて一括りにした。
その時は名前を知らなかったのだけど、ポニーテールだった。
さっきまで泣いていた玲は、鏡に写る自分を見てはニコニコと上機嫌になった。
ぼくは「ふぅ」とため息を漏らしつつ、なんとか機嫌が直ってよかったと安堵し、さぁ教室へ戻ろうかと歩き出したところで玲からシャツを引っ張られた。
「どうしたの?」と振り返ると、玲からハグされた。
普段の玲からは想像出来ない怪力でぎゅぅと抱きしめられた。
僕は若干引きながら背中をポンポンして「可愛く出来てよかった」と言うと
「ジンくん、ありがと」と僕の耳元で玲が囁いた。
心臓が止まるかと思った。
ビックリしすぎて。
脳みそに爆弾は無かったのだ。
いや、判っていたけど。
でも、ここで僕が騒ぐと玲がまた喋ってくれなくなるのではないかと思い「うんうん」と答えるだけにした。
この日の夕方、玲を自宅に送り届けたついでに、玲ママに玲が初めて喋ってくれたことを報告した。
玲ママは最初ビックリしていたけど、僕たち二人を抱きしめて「良かった、良かった。ジンくんありがとう」と繰り返した。
玲の怪力は、玲ママの遺伝だと思った。
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