第6話 迷宮でゴスロリがトラップに引っ掛かったら、とんでもないことになった件について


 迷宮に入ると中は石で構成された通路や広間が連なる形となっていた。大体の階層はこういう形になっている。

 迷宮自体がほのかに光を放っているのか、薄暗いものの見えないということはない。



 しばらく慎重に歩を進め、広間のような場所に出ると前方で複数の影が動いたように見えた。



 不自然にしゃがれた犬頭に二足歩行。コボルトだ。


「さっそく魔物じゃな。ヒトラよ、どうするつもりじゃ?」

「当然決まってるよ。shot!」



 緋色の弾丸がコボルトの眉間を貫いた。

 相変わらずぶっさいくな獣面してんなー。なんというか犬畜生が無理に二足歩行している感があって気持ち悪いんだよね。



「まだまだ結構いるなぁ」


 目の前にはまだ一○を越えるコボルトが煩く喚いている。

 だが武器を出すまでもない。いや、今の僕であれば武器を持つ必要すらない。実際僕は今手ぶらだ。

 油断や奢りというわけもなく、人差し指を前に突き出すだけで事足りる。


「shot!shot!」


 更に血弾丸を撃ち込む。

 銃声が響く度にコボルト達が地に伏せていく。



 弾丸ショットは血液で精製された弾丸を撃ち放つ血術。

 使い勝手がいい反面、使えば使うほど血は減っていく。以前は自分の血液だけしか使用していなかったので、多用することはなかったが今は違う。

 血なんて自由に供給出来るのだから、それを気にする必要も特にない。



「shot!shot!」


 また撃ち込む。そしてコボルトが倒れる。


「shot!shot!shot!shot!shot!」


 撃ち込む撃ち込む。撃ち込み続ける。


「shot!shot!shot!shot!shot!shot!shot!」



 あははははは!!! たーのしーーー!!!!



「の、のぅ……ヒトラよ。お主性格変わっとらんか?」


「うっさい。Absorb」


 メアリーがドン引きしているが知ったことではない。敵は全て倒したのだから万事よし。

 しかもコボルト達の血がどんどん集まっていく。ウヒヒ。


「お主の笑みはなんだか悪寒がするのぅ」

「一言多いよ」


 ほっとけ。

 まぁ、こんなインチキロリなんてむしろ放っておこう。

 胸元にかけた緋色に染まる十字架に視線を落とす。

 ウヒヒヒヒ。ほんとに血が集まったなぁ。今まで使っていた自分の血の総量と桁違いだ。ウヒヒ。


「なんじゃニヤニヤと気色悪い顔で見つめて。昔のこれかの?」


 ニヤニヤと意地悪い笑み浮かべるメアリー。

 このロリはほんとに好き放題いいやがって。


「違うよ。これはいま僕の血液残量を示してくれる遺物レリックなんだよ」


「ふむ、便利なものもあるもんじゃの。どこでこんなもの?」


「二束三文で売ってたから買い叩いた。こんなの僕ぐらいしか使い道ないからね」


 本来特殊な能力を持つ遺物レリックは高額。貴族ですら目が飛び出るほどの額で売買されるものだ。しかし、自分の血液量が分かるだけの遺物など高値がつくはずもない。



「さてと。とっとと先に進むとしますか」


 ともかく今日の目的は魔物を倒し血を集めること。どんどん進んでガンガン血を吸収してやろう。


「あっ」


「え、何その呟き。絶対なんかヤバそうなことしたやつじゃん」


 メアリーは錆びたブリキの玩具のように首をギギギッとねじり視線を向けてきた。


「トラップ踏んでしまったのじゃが」


「そうか。短いつきあいだったけど、君のことは嫌いじゃないかは微妙なとこだったよ」


 メアリーの足元には複雑な紋様が描かれた魔方陣が光輝いていた。あーこれはダメですわ。

 クルリと華麗にターン。僕は何も言わず来た道をクールに引き返すぜ。


 ガシッ


 なんすか。


「おいこら見捨てるつもりか!? しかもなんじゃ、その何とも言えない物言いは!!」


「いや、ほんと! 君のことは三日ぐらい忘れないから! こら、離せ! 裾を掴むな!!」


 あ! くそ、やばい。どんどんと光が強くなってきている。


「いやなのじゃあああ!!! ていうか三日しか覚えてくれないのじゃ!? 是が非でも離してたまるかああああああ!!!!!」



 そんなことをしている内に辺りが眩い光に包まれていきーーちょ、これ転移光じゃん!?



「「あああああああああああああああ!!!!!!!!」」



 ◆




「いてて……どこだよここ」



 気がつくて知らない天井が視界に飛び込んだ。

 とてつもなく広い空間だ。果ては見えず、どれだけ続いているのか検討もつかない。

 迷宮というのは摩訶不思議だ。地下にこんな広い空間があるなんて脱帽する他ない。



「相変わらずこの迷宮は滅茶苦茶じゃの」


 あ、生きてた。

 罠に引っかかった癖にメアリーは偉そうに両手を腰にあててその虚乳を前につきだしている。


「どこの階層だろうね、ここ。なんか無駄に草原が広がっているみたいだけど」


 全体的に薄暗くてよく見えないが、一面には薄暗い緑が広がっていた。



「いや違う……あれは違うぞ」


 メアリーの表情はいつもとは違い剣呑なものだ。


「ん? どゆこと?」


「よーく目を凝らして見るがよい。あれはそんな優しいものではないのじゃ」



 暗いながらも目を凝らして、辺りに広がる草原を見る。

 確かにその緑は動いていた。


「ん……? んん???」


「見えたようじゃな。あれは草花などという可愛いらしいものではない。ゴブリンじゃ。ざっと一〇〇〇体ぐらいという感じかの」


「は?」


「だからゴブリンじゃ、ゴブリン。まぁここまでの頭数揃えばもはやゴブリン軍じゃな」


 んな馬鹿な。

 と言いたいところだが徐々に慣れてきた目が捉える姿形はゴブリンのそれに違いない。

 メアリーは簡単に言うが、僕の内心はそれどころではない。


「なんというかね……限度があるでしょ、限度が」


「ここまで来れば壮観じゃな」


 迷宮は常に危険がつきまとう場所だ。もちろん十二分に覚悟もしていた。

 でもさ。でもこれはやりすぎでしょうよ。

 トラップに引っ掛かったらゴブリン一〇〇〇体と遭遇するとかどういうことだよ。

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