第4話 朝起きたら幼女が隣で寝ていた件について




「ふあーぁ……今何時だ?」


 翌日、目を覚ますと既に太陽は昇っているどころか傾いていた。

 昨日疲労困憊の僕は自宅に帰るなりすぐベッドに倒れ込んだ。そしてこの有り様。


 パーティーを追い出された直後にここまで惰眠を貪るのはいかがなものかと、自分でも思う。考えることは沢山あるがまぁ今回は致し方ない。それほど昨日の出来事は密度が高かった。


 追放され暗殺者に襲われ。

「極めつけにこれだもんなぁ」


 目下最大級の悩みの種の視線を向ける。

 

「むにゃむにゃ……もう食べられないのじゃぁ」


 そんな僕の悩みなどつゆ知らず、銀髪ゴスロリ幼女のメアリーは絶賛夢の世界を浮遊中だ。しかも、僕の隣で。

 ていうかベッドに潜り込んでくるなよ……通報されるでしょこれ。大丈夫かな……大丈夫だよね?

 これから心機一転せにゃならんのにいきなり牢屋スタートとか。初手ハードモードにも程がある。



 ほんと何故こうなったのかと頭を抱えるばかりである。


 ◆



「やはり貴様は妾が同胞たる存在だ。ヒトラ・ブラドーー妾の伴侶となれ」 


 辺りが血で染まる中、ほのかに輝く白銀髪の幼女は微笑みを浮かべていた。この凄惨な光景であえ彼女にかかればどうといことはない。むしろ、彼女を際立たせる要素の一つにしかならない。


「アンタは魔族なの?」


 単刀直入に問うた。

 前々から疑問には思っていた。発言もそうだがその存在が不可解そのものだった。幼女の姿のまま何十年も生きていると噂すらあるのだから、そう思わざるえない。


「ふんっ、その言い方はどうにも好かん」


 魔族とは魔王の部下であり、人類と敵対している。

 しかし、メアリーは特に隠す素振りすら見せない。不満そうにフンッと鼻を鳴らすだけだ。



「さて返答はいかに? あまり乙女を待たすものじゃないぞ」


 メアリーはその大きな瞳を輝かせて僕をジッと覗きみる。

 さて乙女という単語に湧き出た疑問は置いとくとして、どうしたものか。

 別に魔族に対して直接的な恨みがあるわけでもない。元々、血術使いとして蔑まれていた身からすると大した偏見も正直ない。


 よし、答えを決めた。意を決してメアリーを強く見据える。


「お断りしまーす」


「なんでじゃ!?」


「いやだってどう考えても厄介事が舞い降りる予感しかしないし」


 ただでさえこっちは失職中な上、命の危機に晒されているのだ。これ以上魔族なんていう厄介事を抱えてたまるか。


「よく考えるのじゃ!? 妾超絶美少女じゃぞ!? 銀髪ゴスロリ幼女じゃぞ!? 男なら誰しも夢に見る存在じゃろうて!!」


 何その偏見。それは一部の大きいお兄さん達だけでしょ。


「いや、僕は年上ほんわか系の癒しお姉さんがいい」


 ちなみに胸が大きければなおいい。ほら、あそこには人類の夢と希望が詰まっているからね。夢は大きいに限る。

 その点メアリーは不毛の大地。お話にもならないね。


「かーーーーーー!!! これだから最近の男は! かーーーー!!!!! ボインか!? ボインなのか!?」


 まぁ、端的に言えばその通りなんですけど。成長して出直してきて欲しい。あ、でもロリババアか。もう成長する要素がないね。AHAHAHA!!!


「じゃ、そいうわけで」


 ガシッ


「離してよ」


 メアリーは玩具をねだるクソガキの如く袖を掴んで駄々をこねる。


「いやなのじゃ。絶対妾を伴侶と認めるまで離さないのじゃ!!」


 僕の服の袖を掴む手は肉食魚のような執拗さを見せている。

 どれだけ振り払おうとしてもびくともしない。こうなったら力ずくだ。



 お互いの間に沈黙が訪れた。

 そう何も喧嘩するようなことじゃない。彼女は少し疑問だが、僕は歴とした人類の一員だ。人類はどの対話により発展してきた種族と言える。なら僕は今すべきことは、深呼吸をしてその人類の模範的行動に倣うことに他ならない。



「離せえええええええええええええええ!!!!!」


「嫌なのじゃああああああああああああ!!!!!」




 ◆



 そして今に至るわけである。

 どうしてこうなった。


 結局駄々をこねるメアリーに根負けする形となってしまった。

 だって、騒ぎを聞きつけた市民が衛兵を呼ぼうとするし。くそ、理不尽にも程がある。


「ふわぁ~よく寝たのじゃ」


 とても淑女とは思えないでっけー欠伸ですこと。いい女風を装いたいならもう少し慎みを持てよ。


「おぉ、ヒトラ起きてたのか。といってももうおやつの時間じゃがな。巨怪獣ベヒモスですらここまで怠けておらんぞ」


「いや、それはまぁそうかもだけど。ていうか、なんで君は僕のベッドに潜り込んでいるのさ」


「妾の伴侶がそうつれないことを言うではない」


「いや、伴侶じゃねーし」


「妾は思うのだ。つれない其方もまた良いなと」


 おっと涎が、とメアリーは口元を袖で拭き取った。

 駄目だこいつ。早くなんとかしないと。

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