6話

「小橋さん、大丈夫かな?」



 卒倒している小橋さん(理由は不明)を尻目にゲームは続く。

 奈緒ちゃんは、ボクを肩車したまま出番が来るたびにサイコロを振る。

 しかも、毎回出る目は『6』だよ? 信じられなくない?



『また6が出た。貴宝院&吉成ペア、驚異の7連続で6マス飛びーっ!』




 小橋さん(いつ復活したの?)がそう実況するのも無理ない。

 ボクの肩車したまま、当たり前のように6を出し続けるんだもん。もちろん、その姿に女子の視線は釘付け。

 華麗にアスレチックを飛び越えていく姿に歓声は鳴り止まかった。

 中庭の池に打たれた杭の上を歩いて行くエリアも、巨大なブルーシートにまき散らされたツルツルに滑る油のエリアも、奈緒ちゃんに掛かれば造作もない。

 まるで、異世界チート主人公みたいだ。



「スゴいよ、奈緒ちゃん! ボクを抱えたまま、余裕でアスレチックを超えていけるなんて」

「そうでもないさ。それにあの壁は、美樹を抱えたままじゃ無理かな?」

「またまたぁ~、そんなわけ……え?」



 と言いかけて、眼前に設置されたものの巨大さに気付かされる。

 それは、『断崖絶壁の壁』――。

 どんだけ予算掛けたの!? 生徒会の人たち! 奈緒ちゃんの口ぶりから察するに肩車の状態では登り切れないみたい。



「合体したままでよじ登るのは、さすがに無理だね」

「どどどどーすんの? もの凄い壁だよ!?」

「ここは、ふたりでバラバラによじ登ろう。幸い、残り4マスは壁の上みたいだし」

「4マス……?」

「ほら、1マスだったらあんな感じだよ?」



 と人差し指で、次のマスの所在を教えられる。

 そこには、ボルダリングに使われるホールドと呼ばれる突起が3つのマス目と共に用意されていた。

 つまり、あの3マスのどこかに止まったら、宙づり状態で次の出番を待たなければいけないみたい。

 現にふたりの参加者が宙づりになっている。



「は、早く~! 次のターンよ、来てくれぇ~!!」

「……も……もうダメ……お……落ちる……」

「諦めるなっ、西田! ここを耐えきって、オレたちは貴宝院に勝つんだ」



 よく見たら、吊り下げられているのは里森君と西田君だった。

 うーん、あそこに止まるとああなっちゃうのか。同情はするけど、西田君たちを構ってる余裕はなさそう。



「先に行って待ってる」



 気付けば、奈緒ちゃんはもう登り始めていた。

 忍者さながらの動きは、相変わらずの運動神経を物語っている。本当に感心されちゃうなあ。

 対するボクは、1個1個ホールドを掴むだけでも一苦労。もしかしたら、次のホールドを探しに失敗して「ギブアップ」って言うかも?



「ふぬぬぬっ……」

「ほら、美樹。もうちょっとだから、ガンバって」



 だけど、見かねた奈緒ちゃんが頂上から手を貸してくれたおかげで、ボクは頂上に上がることができた。



「ハァハァ……。ありがと、奈緒ちゃん」

「どういたしまして」

「助かったよ。あのままだったら、絶対落ちてたもん」

「先に登っておいて正解だったね」

「さすが奈緒ちゃん!」



 やっぱり、こういうとき奈緒ちゃんは頼りになる。

 ボクだったら、きっとあきらめてたよ。こういうところが、女子にモテる秘訣なんだと思う。



「さあ、ゴールまでもう少しだ。気を引き締めていこう」

「うん! ガンバろう!」


 そう言って、ボクらは次の出番を待つことにした。

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