こころちゃん

夢美瑠瑠

こころちゃん

 こころちゃん、は僕の妹だが、血はつながっていない。

 赤の他人である。だが、「妹ちゃん」と言うと、こころちゃんも「はい、妹です」といって、莞爾(にっこり)と微笑(わら)う

 彼女は原則として「何でも言うことを聞く」が、「それなりの代価と引き換え」という例の「最古の職業」に就いていて、そうして僕と知り合ったのだ。

 

 常識かもしれないが、女性というものは男にとって永遠の謎で、永遠のコンプレックスだ。

 男の日々の営みは結局すべて女性を得ること。パートナーとして素晴らしい女性にそういう存在として認められて、相互に認知しあうことができるようになる、そういう人生の戦いに勝利すること、それが究極的な目的ではないか。

 そして造化の妙というかしかしそういう存在である女性は、やはりいわく言い難い、面妖で?不可思議で、奥深い、唯一無二のものだ。

 勝ち取るだけの値打ちのあるもの、なるほどそう納得させ得る絶妙な魅力を有している。それだからこそ社会は動き、人類も発展してきたのだ…そういう説得力を女性は有している。それだかたこそ、この「最古の職業」も成り立つ…


 一言で言うと、「こころちゃん」はこの職業には似つかわしくない。「妹」という形容がぴったりな、痛々しいほどに清純で幼気で、かわいらしい「少女」である。社会勉強とか、いろいろな経験を積みたくて、だからむしろ真面目な動機でこの仕事に就いたのだという。二十歳というが、セーラー服を着ていても違和感がない。肌や髪は気高いほどに美しく、姿勢もきれいで、ちょっとつんとした表情も声もニンフェット、妖精という例の名高い文学的イコンの化身という感じだ。

 乳房はまだ発達途上で、柔らかく、儚げな感じだ。

 対照的に下半身はプリンプリンに脂がのった感じに張りつめていて、触るとゴムマリのように弾む。

 今まさに青春真っただ中。

 すべすべつやつやの裸身は真珠色で、絖(ぬめ)のように輝いているのだ。

 もうこんな素敵な女の子には二度と出会えないかもなあ…

 ありていに言うと僕は今彼女にぞっこん熱狂している…

 

 (僕はみょうちきりんな風貌をしている醜貌恐怖のオッサンで、そもそも女性という根源的な素晴らしい魅力を持つ生き物のことを知ったかぶりして語るのに相応しい役割とは到底言えない。しかし、醜いマスクを貼り付けられたこいつにも欲望や感情は人並みにあって、で、「最古の職業」の女性にはずいぶんお世話になってきた。コンプレックスの塊で身動きが取れなくなっていた僕の桎梏を解き放ってくれたのが、彼女たちの「乙女のキス」である。この一文は、王子にはなれないがアマガエルくらいにはなれたかな?というガマガエルの後裔がひそやかに綴っている「女性讃歌」として情け深い女神たちに捧げるものでもあるのだ…)


 So What ?

 女性というベターハーフ。男の見果てぬ夢。摩訶不思議な「人生の究極の偶像」。神秘的な美と快楽の源泉。その寧ろ理想形を、ふとした偶然のいたずらで僕はなんの困難もなしに手にしてしまった…運命の女神のみこころが、なぜかこころちゃんと僕を結び付けた。どんな意味が隠されているにせよ、それは大いなる天の配剤で、結局

たぶん幸福なことなのだ。そうあってほしい…


 余談だが、しばらく前から僕は、YouTube音源の、「自律神経が癒される」ヒーリングミュージックのシリーズにハマっていた。音楽家のJ・K氏の考案した特許付きの効能のインストゥルメンタルBGMである。528kHzの特殊な周波数で奏でられる美しいピアノの旋律の数々。そのうっとりするようなその快さに魅せられて、僕は昼も夜もひたすらその音楽の癒しの世界にどっぷりと浸り続けた。やがて、かたくなで荒んでいた僕のこころが穏やかに解(ほぐ)れていって、澄み渡った心境、境涯が訪れてくるようになった。世界が美しく見えてきた。脳波が「癒し」の周波数に同調してきたのだろうか…すると、それとともに今まで疑い深いような微妙な目つきで僕を見ているだけだった周囲の人々が満面の笑みで手を差し延べて僕を迎えてくれるようになった。神秘的な音楽の癒しの福音との出会いが何かを変えてくれたのだ。僕は自分の本来の「こころ」を取り戻したのかもしれない。

 こころちゃんに出会ったのはその頃だった。


 「AAN…AAN…♡♡」

 「…もしかしたら雪女が僕をたぶらかそうとしてここに訪ねてきたのかもなあ」

 「雪女って2ヴァージョンあるのよ。怖いのと…ハッピーエンドの話と」

 「触れる雪女だからハッピーエンドかもな」

 そんな稚拙な会話をしながら「兄妹」は禁断の秘技に痺れあう。

 「AA!」

 露な声を上げてこころちゃんが絶頂を極めると、一瞬全世界が止まって、「天使の降臨」が奇跡的に現前したようなそんな厳粛な気持ちにすら襲われる…


 「出会い」というのは偶然だが、触れ合っているこころの成り行きは必然である。

男と女というのが太古から現在までに古くて新しい真実のドラマを数限りなく繰り広げてきて、それが森羅万象の始まりにして終わりだ。


 そういう人間のアーキタイプをこころちゃんは知り始めたばかりだ。

 そうしてもちろんフリーキーで醜い僕などよりもはるかに深くその蘊奥(うんのう)を極めていくのであろう…





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