第2話

「阿呆が……大人しゅう寝とったらええのになぁ。」


 鋭い風切り音と共に、女のこめかみ目掛け鋭い蹴りが打ち込まれようとしていた。しかし、女はそれを見向きもせずに片手で撫でるように払い退けている。


「……!!」


 姉の目にも止まらぬ速さで次々と繰り出される連撃にも、涼しい顔をして対応する女に妹がすらりと短刀を抜き斬りかかった。


「ほんま……救いようのない阿呆共やなぁ。そないてんごばかりしよったら、おいどひん剥いてお仕置きせにゃあかんなぁ?」


 とんっと妹の体を軽く蹴った……かのように見えたが、蹴られた妹は、はるか向こうに生えている木の根元まで飛ばされてしまった。飛ばされ木の根元で苦しみもがく妹が蹴られた腹を抱え、吐瀉物を撒き散らしている。


「堪忍したってなぁ、わしも好きでやっとるわけおへん」


 そんな妹へ向けにたぁっと笑う女へ、今度は姉が刀を抜き斬りつける。女はそれを避けることなく刃を素手で掴むと、ひょいっと横に倒し刀をへし折った。そして、そのへし折られた刀を呆然と見つめる姉。


「あかんなぁ……刀ちゅうもんはなぁ、縦の力には強うしとるが、横への力にはてんで弱いさかい、簡単に折れてまうねんな」


 いくら横からの力に弱いとはいえ、そんなに簡単に折れるわけがない。それを簡単にやってのけた女は折れた刀をずふりと姉の肩口へ深く刺しこんだ。口から溢れ出しそうな悲鳴をぐぅっと堪え、自分を睨みつける姉の髪を掴むとそのまま地面へと叩きつけた。ぐしゃりと嫌な音がする。さらに引き上げもう一度、叩きつけた。そして、女は姉を自分の顔の高さまで持ち上げると、それでも睨みつける姉を見て笑った。


「ふふん、なんやまだそないな目で睨む元気があるんかいな」


 姉の鼻は折れて曲がり、可愛らしかった唇は裂け、地面に叩きつけられた顔中は血に塗れていた。それでもなお、女を睨みつけることをやめない。


「妹に負けんと、かいらしい顔をしいやおるが、ちいっとばかり、そん顔に忘れられん思い出を刻んでやろうかの?」


 すぶり……


 女の人差し指が姉の左の眼窩へと滑り込んでいく。そして、ぬるりと眼球が姉の眼窩より抉り取られた。これにはさすがの姉も悲鳴を上げた。姉の悲鳴が静かな山々へと響き渡る。女は抉り出したその眼球を姉の顔の前でぷらぷらさせていたが、飽きたのか、ぱっと指を離すとぐちゃりと足底で踏み潰した。


「主がやってきたことへの報いや。わしに父殺しの罪ぃ擦り付け、父の仇や言うて妹を誑かした報いや。わしはな、ほんまに我でやったことにゃ逃げも隠れもせぇへん。その罪を他人に擦り付けたりせんわ。まぁ、そいで左目一つ。安いもんやで、なぁ?」

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