第2話

「アキコ」2


 セブンスターの煙を細く吐きながら流し目でベッドの上に無様に転がる男の死体を見つめている。

 財布から札だけを抜き取り部屋を出る。


 ホテルから出ると笑い虫がお腹をくすぐるー。


「あと二人くらい行っておくかな…」

ニヤニヤと月を見上げながら缶コーヒーを飲んだ。


 繁華街の朝は生命の力強さを知ることが出来る。東京の真ん中にもハクビシンや狸を見ることも出来る。カラスも艶々な羽根を羽ばたかせていて、鳩もすずめもトンビも活き活きとしている。死んだ魚が数日間放置されたような目をしたのは人間だけで八割の人間は必要が無い存在である。


 俺は昼の繁華街を歩いた。ホテルとサウナと公園に警察が大勢集まっていた。

「何かあったのか…」


よう…。


 後から声を掛けられて振り向くと、情報屋の卯月であった。

「昨日、例の女が三人殺したぞ」

「なに!?」

「ホテルで殺した後、公園でやって、最後にサウナだ。ホテルの被害者はどっかのサラリーマン、公園は若い飲食店経営者、サウナはIT関係の社長みたいだな…」

卯月はベイプを吸いながら続けた。

「凶器は空気銃…しかし、空気銃なのに頭をぶち抜いている。頭蓋骨に綺麗な穴を開けて貫通させる物ってなんだと思う?」

「…さぁ、解らないな…」

「検視官もお手上げだと言っていたよ」

卯月は俺の肩を軽く叩いて去って行った。


 1年前ー。

 多摩川の河川敷で身体中が小さな穴だらけの死体が発見される事件が起きた。

 被害者はヤクザで、全裸にされて手脚はガムテープで縛られていて、河川敷のサッカーグランドの真ん中に転がっていた。身体に空いた穴の数は60カ所、警察は殺害後に死体を的にして凶器の練習をしていたのではないかと予測した。

 この事件から不定期に同じ凶器を使った事件が発生している。


 俺は直ぐにあの女の仕業だと解った。

 俺の家族を殺した犯人が再び殺人を犯し始めたのである。


 激しい雨が降っている。


つづく

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