第14話 レヴィン、仲間を集める

 意気込んだレヴィンたち三人は、取り敢えずカフェから出ると、レヴィンの自宅へと向かった。


「ただいま!」


 レヴィンが自宅に帰ると、リビングでは父親のグレンと母親のリリナがお茶を飲んで一服していた。妹のリリスは暇なのか、リビングでゴロゴロしている。


 レヴィンはアリシアとシーンをリビングに連れ込むと、早速両親にシーンを紹介した。探求者としてパーティを組んで生きていくための条件は回復役の存在である。

 白魔導士のシーンがパーティのメンバーになると知ってグレンとリリナは安堵したようだ。

 グレンは約束通り探求者となることを許可してくれたが、二人があまり依頼や狩りをした経験がないことを知って新たな条件を出してきた。

 しばらくは精霊の森でのみで依頼をこなし、経験を積むことである。

 もとより初心者レベルで魔の森などに行けるとは考えていないレヴィンは二つ返事で了承した。


「んじゃ、ちょっと待ってて」


 レヴィンはそう言うと、一直線に自室へ向かった。

 そしてカルマで購入した装備品の数々を確認し、綺麗にキッチリとたたむと、アリシア用とシーン用の装備を整える。

 更にダライアス用の装備を丁寧に手さげ袋に入れると、器用に抱えてリビングに戻った。武器は後回しだ。


「お待た!」


 リビングではアリシアとシーンにお茶が振る舞われ、もてなされていた。

 二人共、まるで縁側に座ったお婆ちゃんのようにお茶をすすっている。

 レヴィンが空いていた椅子に腰かけると、リリスが大胆にも触れてはいけない心の機微きびを突いてきた。


「ねーねー。どっちがおにいの彼女なの?」


 その言葉にアリシアがむせる。

 シーンはお茶をテーブルに置いてニヤニヤし始めた。

 レヴィンは何言い出してくれてんだこのマセガキは!と内心毒づくも軽くたしなめる程度に留めておいた。何と言っても可愛い妹である。とは言ってもまともに会話したのはまだ数日だけなのだが。


「こらこらリリス。今はそんな爆弾を落とす時ではないんだぞ?」


「えー? 私のお義姉ねえちゃんになるんだよ? 気になるじゃん」


 視線を感じたレヴィンが両親の方に目を向ける。

 同時にサッと顔を明後日の方向へ向ける二人。


「リリスちゃん、デリケートな問題はまた後でしよっか?」


「棚上げ……」


 アリシアの選択は先送りであった。

 まるで日本の国会中継を見ているようだ。


「アリシア姉ちゃん、ホントに大丈夫なの?」


「幼馴染に敗北の文字はないんだよ?」


 アリシアが何だかよく分からないことを言っているが、レヴィンは取り敢えず触れないことにした。

 そして強引に話を変えるべく、持って来た装備をテーブルの上に置く。


「まぁまぁ、これでも見て落ち着けって」


 レヴィンが持って来た物に全員の目は一瞬で釘づけになる。


「これがアリシア用の装備品な。ツインリザードの皮の軽装鎧とマントだ」


「ふぇぇ!? 何だか高そうだよッ!?」


「いいんだよ。俺が皆を巻き込むんだから問題ないよ。何も言わずに受け取って欲しい」


「でも、あたし、お金なんて持ってないよ~」


「だーかーらー、お金なんていいっての! 仲間だろッ!」


 アリシアはとても嬉しそうにしている。大きな瞳がウルんで今にも涙がこぼれそうだ。


「レヴィン……。ありがとうッ!」


 泣きそうになりながら、最高の笑みを見せるアリシアにレヴィンも満足気に頷く。

 そして今度はシーン用の装備を丁寧に手を取ると、シーンの前へと差し出した。


「こっちはシーン用だ。聖者のローブな」


 シーンの目が驚きで見開かれる。

 今日の彼女は表情が豊かで、レヴィンの目には普段より魅力的に映った。


「これは……良いものだ……」


 シーンはローブを手に取ると広げてじっくりと見ている。

 そして色んなところを手で触れてその感触を確かめている。


「ありがと……。お金は少し待って欲しい……」


 アリシアと同様にお金の心配をするシーンにレヴィンは手の平を前に突き出してこう言った。


「お金は必要ないって。それより一緒に仲良く頑張ろうぜ。シーンはもう仲間だッ!」


 その後、しばらくお金について問答が続いたが結局シーンが折れた格好となった。


「次はロッドとワンドだな。取ってくるから待っててくれ」


「レヴィン、これ着てみてもいいかな?」


 アリシアが遠慮気味に問いかけてきた。

 上目使いでレヴィンの目を見つめてくる。


「もちろん。俺の部屋で着替えてくるといい」


 アリシアとシーンが顔を見合わせて笑った。

 シーンも速く着てみたかったのだろう。


 レヴィンが部屋に立てかけてあったロッドとワンドを二人に手渡すと、彼女たちは再び目を輝かせて喜んだ。

 そんな姿を見ることができて、レヴィンの心が温かくなる。

 今のところ、前世よりも刺激は少ないが――と言っても魔物戦は燃えたが――代わりに違うものを得ることができたような気がする。

 レヴィンがダライアス用の剣を持って部屋から出ると、入れ替わりでアリシアとシーンが入った。


「あ……。初めて部屋に人を入れたな……。まぁいっか」


 恐らく、ダミーレヴィンの人生十五年間にレヴィンの部屋に入った者など家族以外は皆無に等しいだろう。

 もしかしたらアリシアや、その弟のフィルは入ったことがあるかも知れないが。

 レヴィンがリビングに戻ると、リリスが腕を組み、仁王立ちして待ち構えていた。


「おにい! まさかハーレムとか目指してんの?」


「ハーレム……? ってアホかッ! どこでそんな言葉を覚えてくんだよ……」


「あの盆暗ぼんくらだったおにいが、急に活動的になったかと思えば……。まさか女子二人をたらし込むなんて……」


「いやちげぇよ! お前の頭はハッピーセットかよ!」


 兄妹でそんな無益なやり取りをしていると、着替え終わった二人が戻ってきた。

 もちろん、その手にはロッドとワンドが握られている。

 レヴィンはリリスの相手を止めて、二人の姿を確認した。


「おお。中々良い感じだな」


 レヴィンが褒めると、グレンたちも感心したように頷いている。

 リリスも、その姿が魅力的に映ったのか、自分も探求者になりたいと駄々をこね始めた。探求者の登録は十二歳から可能となる。リリスは今年の七月で十二歳になるのでもうしばらく待つ必要がある。

 レヴィンはリリスにそれまで待つようにと粘り強く説得した。

 前世では姉しかいなかったので、妹となるとどうしても甘くなってしまうレヴィンであった。


「シーン! 似合ってるよッ!」


「アリシアも……ね」


 アリシアとシーンがイチャついている。

 レヴィンは、このまま彼女たちを眺めているのもいいなと思ったが、強くなるためには一日も無駄にはできない。

 空白の期間を埋めるべく動き出さなければならないのだ。

 そう自分に言い聞かせたレヴィンは泣く泣く、彼女たちに言い放った。


「おし! 次行くぞ! 次!」

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