改造!!全身サイボーグ人間

 Dr.ウランが片手に持つのはレンドの使い魔、クロムの頭部である。ぽたぽたと赤い血がこぼれていて、つい先ほど殺してきたばかりといった様子だ。


「ゴルディア、スズ、逃げなさい!!」


 懐から取り出したのは、爆薬のエネルギーを利用した兵器「銃」だ。厳密には機械ではないが、科学的構造に基づいて作られたものであり、はるか遠くから攻撃できる魔術師に対抗するために作られた遠距離武器だ。

 ためらいなく引き金を引くと鉛で作られた弾丸が飛んで行った。


「この至近距離で…躱した!?」


 拳銃の原理は火薬の爆発によるもの。すなわち、普通の女性が簡単に扱えるものではない。だが、彼女の腕は機械によって包まれており、ちょっとした砲台のような形になっている。腕から伸びた二脚が地面へと刺さり銃の先端が上向かないように固定されている。いわゆるパワードスーツ的なものだ。


 シルヴァに射撃の技術がなかったとしても、機械の力で補完されており外すことはなかった。しかし事実、弾丸は明後日のほうへと飛んでいき、目の前のDr.ウランは無傷で立っている。


「どんなトリックを使ったの…!?」


 もし魔術であればシルヴァは検知できない。魔力を持たない人間は魔術師にされるがままだ。それが嫌で科学を極めたが結局レンドの技術には遠く及んでいない。科学に奇跡は起こせない。

 まるで目の中に何かが入り込んだかのように眩み始める。うっすらと何かの魔術を作り上げているのは見えるが、それが何であるかはわからないし、それを避けるすべも持っていない。思わずレンドの名を呼んでいた。彼女たちが学生の時のように、あの男が助けに来てくれるのではないかと期待しているのだ。


 だが、いま彼女が死んだら、悲しむのは誰だ?

 ゴルディアとともに逃げている途中のスズを守れるのは誰だ?

 あの娘の母親は、誰だ?


「お母さんに手を出すな!!」


 Dr.ウランとシルヴァの前に立ったのは、スズだった。ゴルディアに搭載されている太陽光発電機では、スズが十分に逃げるまでバッテリーが持たないと判断し、あえてシルヴァの近くに残ったのだろう。


「……お前は誰だ?Dr.マギカとDr.シンスに娘がいるとは聞いていないが…?」

「スズ、どきなさい。あなたのことだけは守るから!!」

「いやだ!!私は、ずっとお母さんと一緒がいいの!!」


 くだらないお涙頂戴物語に付き合うはずもなく、魔術を完成させたDr.ウランがこぶしを振り下ろす。必死にゴルディアが対魔術用の壁を作り上げるがあっけなく灰と化した。


「はぁー。本当に魔術師っていうのは詰めが甘いわね。奇跡の連発で頭がお花畑なのかしら?」


 家ごと吹き飛ばすかのような爆発。実際、シルヴァたちの背後にあったはずの診療所と家は、土台を残して跡形もなく消えてしまっている。だが、白煙の中姿を現したのは、シルヴァを片手で抱きかかえながら、右手をDr.ウランへと突き出す機械人形ロボットだった。


「特別製パワードスーツ。試作機プロトタイプだけど、うまくいってよかったわ。」

「なんだそれ、ただの機械人形ロボットじゃあないな!!お前は何者なんだ!!!」


 意思なき人形などではない。明確にスズを守りたいという心から作り上げた至高の傑作品。

 名づけるとすれば、機械人形ではなく、機械人間。


「ただの機械よ。しいて言うなら機械人間サイボーグとでも呼ぼうかしら。」


 右手拳を思い切り振りぬく。見間違いなどではなく、彼女の腕が伸びたのだ。


 抱えたスズを地面におろし、吹き飛んでいったDr.ウランをにらみつける。たった一撃入れられただけでおめおめ逃げ帰るほどやわではないだろう。

 予想通り、とっさに魔術で防いだのか対してダメージを与えられた様子はない。


「ゴルディア、チャージして。」

「カシコマリマシタ。」


 ふよふよと漂う機械が彼女の背面へと接続される。頭上のプロペラが太陽光パネルへと変形したかと思うと、だんだんとシルヴァの口元が熱を帯び始めた。迎え撃つようにDr.ウランの前に三枚の魔術壁が展開される。


「電気の力でしびれさせてあげる!!高圧電撃砲ハイ・ヴォルテージ!!!」


 超高圧の電撃が放たれ、ガラスを砕くように魔術壁を破壊する。黄色の光線にDr.ウランの体が呑み込まれるが、シルヴァは効いていないだろうと予感する。まさしくその通りであり、直前で自分自身に絶縁魔術を仕掛けていた。


 小便でも漏らしたかのように彼の足元が濡れていて、Dr.ウランが一歩下がるとシルヴァの雷撃が空へと昇る。


「ハハ…。そうやって何もかも成功させる奴らには僕は理解できないさ。だから嫌いなんだ。Dr.マギカが!!」

「何の話?彼が一体何をしたというの…。」


 またも怪しげな色の石を輝かせたかと思うと、シルヴァの視界が歪む。全身を駆け巡る激痛は、例えるなら太陽に抱きしめられたかのような痛み。


「正しさは、排する!!お前たちの幸福は許されないぞ……。」


 打ち上げられた雷に呼応するように雷雲が作り出されて稲光が交錯する。ただの天候操作魔術ではない。

 それ以上のナニカ。


 シルヴァめがけての落雷は、彼女の体を焼き焦がす……。かに思われた。


「ゴ…ルディア…?」


 パワードスーツの背面から飛び出し、シルヴァの体を突き飛ばしたのはゴルディアだった。

 超高圧の電撃が直撃し、中の基盤はもちろん外装も原型をとどめていない。変わり果てた機械の姿がそこにはあった。ただ、エラー音だけを吐き出すだけのガラクタだった。


「ゴルディア…!?あなた、どうして…?」

「マスター……。私ハ……。」


 何も言わぬまま。何も言えぬまま。あっけなく壊れた。

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