無電!!絶縁結界
魔術は問題なく使えている。だが、ゴルディアといい、脳波測定器といい、シジマのスマホといい、一切の機械関係が動かなくされている。
原因があるとすれば、死体となっているエレクルだろう。今も彼の体内は魔力が流れており、それによって命を繋いでいるような状態だ。そんな彼に何ができるというのだろうか。
「エレクルを治せば解決するのか、Dr.ウランを追いかけなければ解決しないのか。判断はつかないが、出来ることからやってみるべきか…」
「ドクター、俺も手伝おうか?もとはと言えば、俺が持ち込んだ厄介ごとだからな」
取り立て屋の意外な言葉に驚く。ありがたい申し出ではあったが、呪いを持った素人を同席させるほど余裕のある状況ではない。これが、日頃手伝いをしているスズや、正式な助手であるクロムなら思う存分に手伝ってもらったのだが。
「…まて、お前魔力を持っているよな?その
「わ、わかった。だが、そんなに魔力は続かねえと思うぜ?」
「そこの青色の
わざと青色に着色した液体を指さす。作ったばかりであり試験管の中で湯気が立っていた。魔力の回復量は微々たるものだが、連続で飲んでも体への負荷がかからないのが特徴だ。
ちなみに赤いほうは一日一本、緑の方は二本か三本までが目安とされている。
処置台の上に乗ったエレクルの体を調べ、Dr,ウランが仕掛けた魔術を解析する。
魔術に必要な媒体、これは男の体自身だ。次に図形、頭頂部に描かれた円環の魔術式だろう。そして、魔術式に書かれている内容。絶縁魔術を基礎としており、水分を通して電気を体外へと放出している。
「水分…?おかしいぞ、絶縁ということは体外に放出することはもちろん、体内に侵入させない魔術式も必要になる。そもそも、出ていった電気はどこに行くんだ?」
天候操作の魔術では、散らばった雲や雷を一カ所に集め、自分の好きな場所で故意に放出させることで晴れ間を作り出す。いくら神秘の力とは言え、存在しているものを何もなしに消し去るなんてことは出来ないのだった。反対に、無から有を作り出すのは案外得意なのだ。
ただし、完全なる無ではなく、Dr.マギカの魔力やいくつかの魔術媒体を利用して成功させるものであり、命の対価が存在しない以上死者蘇生は不可能である。
「この電気の送り先…。電気工学士ではない俺では、辿るに辿れないな…」
目には見えない電気を見える形で表すのはDr.シンスの得意分野。魔力ならともかく、電気を可視化させる魔術など持ち合わせてはいなかった。そして、今から生み出すというのもリスキー且つ時間が足りない。
倒れているシルヴァに目を配り、どうしたものかと思案をしていると、バタバタという足音が診療所の玄関先から聞こえてきた。
「お父さん!!」「Dr.マギカ」
「ドクター、異常事態です!!」
同時にやってきたのは愛娘とお守りの使い魔、そして来院予定のないヘルニアだった。
あまりにいきなりの出来事で否応なく外へ視線を向けると、息を切らせた三人の向こう側で煙が立ち込め
まるで龍のように黄色い閃光が暴れまわり、曇天すらない空を切り裂いている。診療所に仕掛けてある防御魔術によって雷の音は小さくなっているが、少し範囲外に出てみれば、爆発でも起きているかのような轟音が鳴り響いている。
「シジマ!!魔術を止めろ!!」
「うぇ!?俺のせいなのか?」
驚きながらも言われた通りに魔力の放出を止める。一泊遅れて街の方での落雷もとい昇雷も収まった。
「ドクター、真向かいの家が突然燃え出して、あんな風に雷が落ち始めたんです。魔力を感じたってことは、魔術かなんかでしょう?見てくれませんか?」
「俺とスズが買いものしてたらいきなり爆音が聞こえたんで慌てて報告に来たんだ。」
「お父さん、なんでお母さんが倒れてるの!?」
絶縁。酒依存症。DR.ウラン。静電気除去。昇る雷。死体。魔術。使えない脳電波測定器。充電切れのスマホ。バッテリーの無いゴルディア。
「絶縁病…電気を通さなくなる魔術ではなく、電気を奪い盗る魔術か…」
その行先は
「エレクルの吐いた吐瀉物。もっというのなら、酒!!」
本来電気というのは蓄電されており、生体電気にしろ、機械を流れる電気にしろ、簡単に自身の電荷を失うことはない。多少自然放電しようとも、それ以上に周囲を漂う電気の方が大きい。
だが、何らかの方法によって過剰に電気を失うことがあれば?
たった一瞬でも充電状態を維持できなくなったとすれば、すでに絶縁化されている物体は、再び電気を保持できる状態には戻れない。そういう風に作られた魔術なのだから。
たとえば、伝導率のいい酒に生体電気をすべて持っていかれ、それを体外に吐き出したり。
たとえば、静電気だけを除去するつもりが、それらと共に体内を動かす信号まで放出してしまったら。
たとえば、スマホを使うために一瞬画面を点灯させれば。いや、そうでなくても、生物でない以上自然放電の割合は大きい。
「この男に掛けられている魔術は、あくまできっかけに過ぎず、本命は向こうの家ということか…!!」
クロムに声をかけて、いくつもの加速魔術を展開させる。スズに患者とシルヴァの様子を見ておくように厳命し、またも窓ガラスをぶち破って外へ飛び出した。
雷は収まったものの引火した火災はそのまま。未だ煙の立ち込める現場に向かうと、町の消防隊が必死に消火活動にいそしんでいた。
「…クロム、頼んだ…」
「わかってるよ…」
空中から降り立ち、視線を下げたまま消防士たちの前に立つ。
「俺は、魔術医のDr.マギカだ。この火事の原因は魔術によるものだと推測される。故あって消火活動を手助けさせてもらおう。」
適当に口元を動かし、声はクロムが話している。が、隊員たちも突然黒猫が話し始めるとは思っていないようで、何とか誤魔化せている。
魔術と消防隊の放水によってある程度鎮火ができると、消防隊の制止も聞かずに燃え尽きた家の中に入る。ほとんどが燃えカスとなっているが、府事前に焦げていない床があった。
酒臭い吐瀉物。すでに渇き始めており、より一層異臭が漂っていた。簡単な防御魔術が施されており、これによって火災の影響を受けなかったらしい。
サインこそ残されていないが、魔術の描き方は見覚えのあるDr.ウランと一致する。魔術の強制解除によって吐瀉物もろとも床からはね除けた。
汚れたフローリングにはエレクルが吸収した雷を転移させるための魔術が施されており、おおよそ火災の原因となったのもここだろう。
『楽しめたかな?今度はどうやって遊ぼうね?Dr.ウラン』
魔術式の下に書かれたふざけたメッセージ。苛立ちに任せて床ごと破壊した。
診療所までもどると、すでに電気を吸収する原因を破壊したためか、シルヴァとゴルディアは起き上がっており、シジマもスマホの充電を再開していた。
いつかみた魔術破壊装置と電気ショックの準備をして、エレクルを治療しようとしている。
念のため
「絶縁魔術で転移先を隠蔽していたのは、人用に作り替えたわけではないのか…」
魔術を破壊される前にDr.ウランが作った人用絶縁魔術を調べる。といってもどこか参考にできる部分も無ければ、Dr.ウランの手がかりもつかめず、完全に無駄に終わった。
「治療、始めていいかしら。」
「ああ、頼む」
処置を終えてもアルコール依存症のエレクルに治療費を払うだけの経済力はない。が、別に二人は金が目的で医者をやっているわけでもないので特に気にしなかった。
もっとも、幸福の取立人は紹介料という名目でたっぷり金を搾り取ろうとしていた。
……To be continued
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