二人を結びつけたのは、あるひとつの音色だった。

 主人公、長田悠一は、父親が営んでいるラーメン屋台の手伝いをさせられていた。
 不平を並べたてながらも仕事をこなしていく彼の心の支えとなっていたのが、夜の十時になると聴こえてくるバイオリンの音色。鼠の断末魔のように酷い演奏だったそれは日を追うごとに上達していき、けれど、必ず同じ箇所で躓くのだった──。

 主人公と、「バイオリンの君」こと同級生、城山真妃との交流を描いた物語。
 クラスで特段仲が良かったわけでもなかった二人の関係が、ある夜の出会いから劇的に変化していく様が丁寧に描かれています。
「そんな演奏で大丈夫なのか?」と、コンテストに挑む真妃に軽率な言葉をかけてしまう主人公。しかし、彼の後悔を他所に、彼女はしっかり結果を出すのです。
 彼女の演奏が変わった理由は、意外にも彼が行ったとある「軽率な行動」が引き金となっていて?
 
 意図せず、互いが互いを助けていたという人と人の繋がりや運命やらを感じずにはいられない爽やかな結末に、じわっと胸の奥が熱くなりました。主人公の心情を表現した「夢」のシーンも、よいアクセントになっていると感じます。
 熱く燃え上がり、そしていままさに次のステージに向かおうとする彼らの物語を、是非見届けてください。
 場面構成にいっさいの無駄がなく、しっとりとした展開が持ち味の短編です。