何故?

「どうしていつまでも治らないのか」

 僕は退院しても通院しなくてはならないが、やめた。

 原因がわからないから、きっと聴覚につながる神経がどうのとかいう話なのだろうが、何も聞こえないのだから説明されても意味はない。聞こえないものは聞こえない。必要なのはイヤホン、ヘッドフォンをかけて早くドーナツホールの音楽が聴きたいと思っていた。

 

 蓉子は大学に入学してからの彼女。

 家族の次に、泣きはらしたかおをして僕に何か話しかけていた。

 でも、何もわからない。

 蓉子は僕の母に肩を抱かれて二人で泣いていた。

 それもまた、初めて会った二人とは思えないくらいの似合いの二人だった。

 まるで親子みたいに……。

「なあ? なんで僕だけが?」

 退院するときにやってきてくれた蓉子に聞くと、彼女がバッグのポケットから出した掌ほどの大きさのメモ帳に黒のサインペンで書いた。

「ごめん、私もなんでと思う。だけど頑張ろう。一緒にいるから」

 無駄、無駄、無駄。

「僕なんかと一緒にいても不幸になるだけだよ。もう来なくていいっていったじゃないか。別れよう」

 そういうと、蓉子を無視して病室を出ようとした。

 ぐしゃぐしゃに泣いた顔をして、僕の前に飛び出した。

 大きく顔を横に振っている。

 僕も泣いているのはどうしていいのかわからないから。

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