第4話 アの魔王

「お前がここの魔王だな」

「まさか、町を放火していたのが勇者だったとはな。しかも、こんなおっさんとか笑えないな。禿ろ」

「いやいや、あれは剣を研いでいたら火が付いただけで」

「剣を研いだくらいで、町が燃えるかよ!どんだけ研いだんだって話だよ、禿ろ」

「いや、禿関係なくね?という、なにそれ口癖なの?」


 剣が研ぎ終わり、スパスパ斬って城に入り込んだ。

 というか真正面から堂々と入ってきたわけだが、切れ味が良すぎて相手の武器ごと切り払ってしまい、ここまで俺を止める事が出来るものは無かった。


 で、目の前にいるのがアの国の魔王らしいが、獣人たちの魔王なのに、頭がツルツルだ。

 他の部位には毛が残っているのに頭だけ禿げているからキモイ。

 まじ、何がどうなったらそうなるの?!


「さっきから黙って聞いていれば、好き勝手罵倒しやがって!コロス!」


「あ、やべ声に出てた?

 まぁ、どっちにしろ殺らないといけないからな。

 よいせっと」


 先程死ぬ気で研いだおかげで、刃の部分だけピカピカな……、うんアの魔王よりピカピカ。

 そんな剣を横に一薙ぎする。

 ビュオッと風を切る音がして、暫くすると……。


「ギィヤァっ!?!」


 と、変な声と血飛沫をあげてアの魔王が倒れた。


「え、これで終わり?弱くない?」


「わーお、さっすがー、すごーぃ」


「これを言っているのが師匠じゃなきゃ、もっと喜べるんだけどなぁ」


「何か言った? 一回死んでおく?」


 結構ですとか言う前に、ぺちゃんこにされる俺。

 もうさ、何のために身分隠して俺についてきたのか……。


 自分達の王を倒した勇者を倒した謎の女魔法使い。

 しかもただの杖で撲殺。

 もはや、見ていた獣人達も理解が追いつかずに口を開けてポカンとしている。


「やべ、やっちった。てへっ!

 あー、そうそう!

 お前達の王の仇は、私が取った!

 喜べっ、お前たちの生活を脅かす勇者はもういない!」


 混乱している頭で、取り敢えず仇を取った強い女という事だけ理解した獣人達はまるで英雄が生まれたかのように褒めたたえた。


 ちなみに俺はすぐに蘇生されて、死んだふりをして全部聞いている状態だ。

 うん、師匠その足どけて。

 ミシミシと締付けられてメチャ痛い。


「そして!

 こいつは今私の下僕として蘇生した!

 こいつは私の奴隷だ!所有物だ!

 だから勝手に襲わないように!」


 ええーっ?!と戸惑いの声があがったが、容赦なく声があがった場所に魔法を落とす師匠。

 一瞬で灰にされた同胞を見て、もはや歯向かう気力は削がれて無くなったみたいだ。


 わが師匠ながらえげつないな。


「めちゃくちゃしますね」

「実力主義の獣人達相手にはこれが一番よ。

 それに背後からチクチク刺されたくないでしょ?」

「それはそうですけど、こうするなら最初から師匠がやれば良かったのでは?」

「馬鹿ねぇ。私が殺っちゃったら略奪者になるじゃない。アンタが、先に殺ったから私は英雄になるのよー」

「うわー、えげつな」

「え?死にたい?」

「いえ、今日も最高に綺麗です、最高です」

「分かればいいのよ~」


 これ以上は危険だ。

 最近痛覚すらヤバいのに、これ以上やられたら精神もおかしくされそうだ。


「取り敢えずお疲れさん。

 はい!これでリフレッシュしときなー」


「あ、はい。ありがとうございます」


 そう言われて飲むとくそ不味い。

 しかし、何故か気分が良くなるんだよなこのドリンク。

 ふふふふ、あはははははっ!!


「あ、もうキマッちゃってるね!

 それ飲むとどんどん痛覚消えていくから、何度死んでも大丈夫になるわよー」


「ふふふふ……。えっ??

 これってヤバいやつ混ざってます?」


「まぁ、ちょっとヤバくなる薬草とか入っているけど死なないから大丈夫よー。

 国によっては、その薬草使っただけで捕まるけどねー!あはっ!」

「マジやべーやつじゃねーっすかっ!!」

「煩いなぁ。頭潰すよ?」

「普通潰したら人生終わるんですから、軽く言うのやめてください……」


 しかし、痛覚無くなるのこのドリンクのせいなのか。

 もう、完全に人間やめているな俺は。

 まぁ、この人に捕まった時点で人生詰んでるのは分かりきってたけどね。

 はぁ、涙止まんね。

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