第19話 僕と親睦会

「……なるほど、これが親睦会か」


橙火とうかのIDを入手した数日後。6時間目がホームルームで学校が早く終わった日、暁斗あきとは制服のまま智也ともやに連れられてとある場所に来ていた。


「暁斗のことだから、女子の家なんて初めてだろ?」

「ま、まあね……」

「せっかくだし、俺が可愛い子と仲良くなれるように誘導してやる!」

「それは有難いけど、迷惑じゃない?」

「お前は俺の親友だ。自信さえ持てばなかなかいい男だぞ、俺の次にな!」


さすがに毎週夏穂なつほの家に入り浸っているとは言えず、物理的に背中を押されるがまま目の前の大きな門をくぐる。

ここはクラスメイトである柳田やなぎだ 冬優ふゆゆの自宅。彼女は全国で有名な柳田グループの社長令嬢で、すごくお金持ちなのだ。

ただ、会話をしたことがある人はほとんど居ない……と言うと高嶺の花感がすごいが、そもそも彼女はほとんど話さない性格なのである。

いつも夏穂のグループに混ざってはいるが、物静かで無表情のままぼーっとしているだけというイメージが強い。

ただ、夏穂にだけはべったりしていて、甘えたがりな性格なのではないかと言う噂はよく耳にしていた。


「お邪魔するぜ〜」

「あ、いらっしゃい。部屋はこっちやで」


使用人の方が開けてくれた扉から屋敷と言っていいほど豪華な家に入ると、準備を手伝ってくれていたらしい橙火が案内してくれる。

そこはパーティ会場と見間違えでもおかしくない大きな部屋で、既に大半のクラスメイトが到着して談笑していた。


「こういうところ、僕は苦手だよ……」

「俺が着いてるだろ? 安心しろ、一人にはしない」

「何そのセリフ、女だったら惚れてた」

「ふっ、ちなみに女に言ったことは1度も無い」

「智也、意外と小心者だもんね」

「うるせぇ」


肘で脇腹を小突かれつつ、会場の奥へと進んだ2人は、智也の提案でとあるテーブルを選んで座った。

そこには他に誰も座っておらず、4席が余っている状態。どうして人が多い場所に行かないのか、その理由を暁斗はすぐに悟った。


「はーい、これでみんな揃ったよ!」

「し、親睦会を……は、始めますよー!」

「ほれほれ、さっさと座りぃや」

「……」


全員が揃ったことを確認し、準備や案内を手伝っていた3人が、冬優を連れて会場へと入ってくる。

今回の親睦会の発案者は彼女たちであり、最後に席に着くのもこの4人。そして仲良し4人組が別れて座ることはありえないため、智也はあえて4席空いたこの場所を選んだのだ。


「智也、ウチらここに座るで?」

「し、失礼しますぅ……」

「じゃあ、私はこの席かな! 冬優も隣においで」

「……」コク


ただ、ここで問題が発生した。料理やらスイーツやらを食べてみんな仲良くなる……ということが目的の会で、暁斗の隣に夏穂が座ってしまったのだ。

彼からすれば仲良しなことを隠している立場であり、なるべく会話をしたくはない。

しかし、そんなことを知らない智也は「せっかくだから、夏穂ちゃんと仲良くなれ!」と急かしてくるのだ。

その好意を断るわけにも行かず、暁斗は目で『合わせて欲しい』という気持ちを伝えながら、おそるおそる彼女に話しかけた。


「な、夏穂さん……?」

「どうしたの、アッキー」

「……こほん」

「ん? あっ、暁斗くん! そうそう、アッキーは隣の家で飼われてる犬の名前だったー!」

「アハハ、僕は猫派なんだけどなー」

「確かにねね子ちゃんもにゃんにゃん言って……じゃなくて、私も猫派なんだよねー!」

「それは奇遇だね」

「それな!」


特に面白みもない会話をしながら、お互いに下手くそな作り笑いをする。

そんな様子を険しい表情で見つめていた智也は、何を思ったのか小さく頷くと、突然スマホを取り出して二人の写真をパシャリと撮った。


「うむ、いい顔だ。お前らお似合いだな」

「そ、それはどうも……」

「あはは、アッキーと私がねぇ……」


どう見ても引きつった顔をしている写真を見せられ、心の中で『どこがだよ』と盛大にツッコミを入れたことは言うまでもない。


「……やっぱり、こういうのは苦手だよ」

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