第13話 嫉妬と信頼

「にゃるほど、勘違いしちゃってたにゃ……」


 ようやく落ち着いてくれたねね子に事情を説明すると、彼女は素直に夏穂なつほへ「ごめんにゃさい」と頭を下げてくれた。

 それを聞いた夏穂はと言うと、「私とアッキーがそんなこと……」と一切こちらを見てくれない。

 暁斗あきとからしても自分とそんなことをする想像をさせられて怒る気持ちはわからなくも無い。

 ただ、張本人であるねね子の顔は見れるのに、こちらを見てくれないことは理解できなかった。


「ねえ、夏穂さん。僕が悪いわけじゃないよね?」

「それはそうだよ。アッキーは悪くない」

「じゃあ、どうしてこっちを見てくれないの?」

「ひ、人様には言えない事情があるって言うか……」

「安心して、何を聞いても驚かないから」


 そう言いながら、モジモジとする夏穂の肩を掴むと、彼女は体をビクッとさせてこちらを振り返る。

 暁斗はその顔を見た瞬間、やってしまったと心の中でため息をこぼした。

 夏穂の顔に浮かんでいた感情は怒りでも悲しみでもない。真っ赤になるほどの恥じらいだったから。


「……あのさ、アッキー。勘違いしてるかもだから今のうちに言っておくね」

「は、はい!」

「私がこんな見た目だけど、男の子とそういう経験がないことはよくわかってくれてると思う」

「分かっております!」

「でもね、だからって意識しないわけじゃないから。アッキーでもバリバリそういうこと意識するから!」


 ずっと我慢させていたのかもしれない。自然とごめんなさいという気持ちが込み上げてくるような心の叫びに、暁斗はしばらく言葉を発せなかった。


「そりゃ、夏穂さんだってアッキーに際どい格好を見せたりするよ。でも、それは前もって心の準備をしてるから出来るの」

「そ、そうだったの?!」

「当たり前じゃん! でも、アッキーなら変な気を起こさないでくれるって信頼があるから、安心してからかえるんだよ?」

「いやいや、そもそもからかわないでよ……」

「それは無理。だって、私の趣味だもん♪」


 そんな言葉を聞いた彼が「人をからかうのが好きなんて趣味悪いね」と呆れると、夏穂は「そうじゃないよ」とニヤニヤしながら耳元に口を寄せてくる。

 そしてからかいのつもりなのか、本気なのか分からないような甘い声で、ねっとりと囁くのだった。


のが趣味なの♪」

「っ……」

「これからも理性が吹っ飛ぶギリギリを攻めるからよろしくね?」

「お、お手柔らかにお願いします」

「それは夏穂さんの気分次第かな〜」

「そんなぁ」


 何をされるのか、色んな意味でドキドキしてしまう暁斗に、早速「それにしても暑いね、この部屋」なんて言いながら服をパタパタとする彼女。

 チラチラと見えるお腹と、見えそうで見えない下着が何ともエロティックで、体が自然としゃがんで覗き込もうとしてしまう。

 だが、すぐ背後から「ご主人?」という怒りの込められた声が聞こえると、何とか正気を取り戻すことが出来た。


「下着くらい私が見せてあげるにゃよ!」

「いや、ねね子は下着持ってないでしょ」

「……アッキー、なんでそんなこと知ってるの?」

「だってまだ買ってない―――――って、別に全部チェックしてるわけじゃないから!」

「なるほど、暁斗くんにはそういう趣味がねぇ?」

「急に他人行儀になられると泣くよ?!」


 その後、相変わらずねね子は夏穂を危険視しているらしかったものの、夏穂側はねね子を気に入ったようで、一緒に下着を買いに行く約束をしていた。

 正直なところ、女の子の下着についてはよく分からないので、暁斗にとっても助かったと言っていいだろう。


「ねね子ちゃん、アッキーのこと好きなんでしょ?」

「も、ももももちろんにゃ!」

「なら、勝負下着とか持っとかないとね」

「勝負下着ってなんにゃ?」

「こういう下着を履いてると物事が上手く進むって感じで、簡単に言うと自分のモチベーションが上がる下着のことかな」

「にゃるほど!」


 そんな会話は聞いていないふりをしていた暁斗だったが、夏穂が席を外した隙に「もちべーしょんって鍋に入れるやつかにゃ?」と聞かれ、思わず吹き出してしまったことはまた別のお話。

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