第46話 白雪姫とTVゲームの提案



「ふぅ、ご馳走様でした」



 女性陣による思い遣り(?)により多めに皿に盛られていたパスタだったが、他愛のない会話をしながら無事完食。普通盛りの女子二人は勿論、陸上部員である渡など日々激しく身体を動かす所為か、難なくぺろりと平らげていた。

 若干まだ物足りなさそうな表情をしている辺り、流石運動部というところである。


 一方の晴人はといえば、普段食べ慣れない量を食べたので既に満腹。少々苦しさを感じつつも、どこか満足そうにお腹をさすっていた。弛緩した雰囲気の中、晴人に続いて三人もご馳走様でした、と言葉にすると、間髪入れずに夏菜が顔を顰めながら声を上げた。



「あーやだ、まだ勉強したくないー!! もっとだらだらしたいー!!」

「俺も夏菜と同意見! 昼飯までは集中して勉強したんだからもう遊ぼーぜ!! じゃーん! ほら、ゲームも持ってきてるし!!」

「え、えっと……」

「マジかお前ら。補講回避の為にどうしてもって渡が言うからこうして勉強会してんのに。俺と由紀那は兎も角、それで良いのか二人は?」



 夏菜と渡の唐突な言葉に思わず晴人は呆れた表情を浮かべるも、実を言えば想定していなかった訳ではない。


 晴人が渡と一緒に勉強会をしたこれまでの経験上、必ずと言って良い程に渡は途中から勉強に飽きるとゲームで遊びだす。性格上、集中力が続かないタイプなのだ。毎回一時間おきにゲームに走ろうとする渡だったが、今日に限っては珍しく耐えた方だろう。


 その姿勢は補講回避の為、もしくは彼女である夏菜に良いところを見せたかったのだろうか。頑張っていたようだが、どうやら夏菜と一緒で昼食まで続いていた集中力が切れてしまったようだ。



「はいはい!! 勿論勉強会を開いてくれてすっごい感謝してるけど、モチベーションも大事だと思いまーす!!」

「ま、今日に限っては晴人の他に冬木さんも来てくれたからな! わからない所も丁寧にわかりやすく教えてくれるから、効率良く覚えることが出来たし、あとは公式とか教科書の内容を暗記すれば平均点を下回ることはないだろ」

「俺からしてみればゲームをしたいだけの口実に聞こえるんだが……。まったく、由紀那からも言ってやってくれよ」

「………………」



 真面目な由紀那に二人を諌めて貰おうとした晴人だったが、なんと彼女の視線はただいま渡が取り出したゲーム本体とテレビに繋ぐケーブルに夢中である。


 無表情ながらも、それを見つめる彼女の瞳は興味津々そうに輝いて。



「おーい、由紀那さーん?」

「……はるくん。私ね、こういった家庭用ゲームって持ってないの」

「お、おう」

「憧れはあったのだけれど一緒に遊ぶ友達もいなかったから諦めていたのよ。憧れはあったけれど、ね」

「そ、そうだったのか。えーっと、つまり———?」

「……遊んじゃ、だめ?」



 由紀那はこてんと可愛らしく首を傾げると、困惑げな晴人をじーっと見つめる。うっ、と思わず晴人は呻いてしまうも、暴走しかけた心をなんとか理性で押さえつけた。


 それにしても実は彼女がこういった娯楽系というか、ゲーム機に興味を抱いていたなんて意外である。現に由紀那はどこかそわそわとしながら好奇心を隠せてない。そんな彼女を見るのは新鮮だった。潤んだ瞳にねだるような声。それはもう見事に晴人の心にクリティカルヒットである。


 決して言葉にすることなく晴人なりの思いを心中で吐露する。



(そんな可愛い仕草でお願いされたら断れないだろうが)



 晴人は深い溜息をつくと、表情を伺うようにしてこちらの顔を覗き込んでいる由紀那を見つめ返しながらそっと言葉を紡いだ。



「……わかったよ」

「やった。とっても楽しみ」



 嬉しげに瞳を細めている彼女の様子に思わずくすぐったい気持ちになる晴人だったが、いつの間にゲーム機とテレビをHDMIケーブルで繋ぎ終えていた渡が夏菜とコソコソと会話しながらこちらを見ていた。



「見ろよ夏菜、あれが惚れた弱みってヤツだ」

「青春ですなぁ」

「お前らはっ倒すぞ」






















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ごめんなさい、短いですが区切りが良かったのでここまでです。次こそ本当に勉強会編ラスト!!


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