第24話 白雪姫からの贈り物





「あ、お店の中に忘れ物をしてきてしまったわ」



 やがて会計を済ませた晴人たちは店の外に出るも、隣に並んでいた冬木さんは唐突に平淡な口調でそのように声を上げた。そんな彼女の様子におや、と首を傾げながらも晴人は思考を巡らせる。


 忘れ物、というと財布やスマホといった貴重品だろうか。


 現在冬木さんの手には、先程購入したぬいぐるみや髪留めが入った茶色の紙袋以外に彼女のハンドバッグが握られている。


 あくまで晴人の推測になってしまうが、彼女の本日持参してきた持ち物は全てハンドバッグに仕舞われているだろうし、少なくとも店内では取り出すような気配が無かった以上、貴重品などを店内に忘れてきてしまったという線は無いに等しいだろう。


 とすると、彼女が言う忘れ物とはなんなのだろうか、という疑問だけが残る。


 

「ごめんね風宮くん、少しだけ待ってて頂戴」

「あーっと……俺も行かなくて大丈夫か?」

「えぇ、もう見当はついているわ」

「いったい何を忘れてきたんだ?」

「秘密よ」

「……そっか、じゃあ俺は店の前で待ってるよ。気を付けてな」



 えぇ、と返事を返しながらこくんと頷いた冬木さんは、再び鈴の音を鳴らしながら店内へ戻っていった。それを見送った晴人は通行人の邪魔にならないように店の壁の前へと移動すると、息を吐きながらゆっくりと空を見上げる。


 ―――晴人の表情には、穏やかな笑みが浮かんでいた。


 冬木さんが秘密と言った忘れ物は非常に気になるところだが、彼女の姿が無い今ならば少しくらい充実感に身を委ねても罰は当たらないだろう。


 贈り物の購入を終えたばかりで気を緩ませるには些か早いタイミングなのだが、なんといっても晴人は母親以外の異性へ贈り物をするのは初めてなのだ。

 冬木さんと一緒に店内を巡るのは楽しかったが、心の奥底では気に入って貰えるだろうか、落胆させてしまわないだろうかという緊張や不安、恐怖をずっと抱えていた。



『―――私の為に色々と考えてくれてたのが、とても嬉しくて』



 その喜びに富む言葉に、向けられた暖かな瞳に。どれだけ晴人の心が軽くなったのか、彼女はきっと知らないだろう。


 恥じらいが先行してしまい咄嗟に反応出来なかったのは少しだけ心残りだが、喜んで貰えて良かった、勇気を出して誘って良かったと心から安堵するばかりである。



(また機会があったら誘ってみるか……?)



 そんなことを考えつつ外で待っていると、冬木さんは思ったよりも案外早く店から出てきた。無事忘れ物は見つかったのだろうかと彼女のもとへ歩み寄ると、ぱっちりと視線が合う。



「ごめんなさい、待たせてしまったわ」

「いや全然。それで、秘密の忘れ物は見つかったのか?」

「……正確に言えば、見つかったという表現は正しくないのだけれど」

「?」



 冬木さんのやや遠回しな表現に首を傾げる晴人だったが、彼女は手に持った見慣れない小さな紙袋を晴人の前へずいっと差し出した。


 どういうことかと彼女の顔へ視線を向けてみると、見事に普段通りの無表情だった。だがその端正な顔の頬には若干の赤みが差し、どこか緊張と少々の期待が含まれている。


 そんな冬木さんの様子を不思議に思いつつ、そっと受け取る。その茶色の紙袋は丁度A4程のサイズだろうか。紙袋の大きさに見合った重量らしく、片手で持ってもまったく重くない。



「開けて、良いのか?」

「……えぇ、どうぞ」



 彼女から無事了承の返事を貰ったので、口留めされていたテープを丁寧にはがしていく。その中を覗き込むと、晴人は思わず目を見張った。



「フォトフレーム……?」

「お礼のお礼って言ったらなんだか少し変な感じだけれど……。その、さっきは風宮くんと一緒にお買い物が出来て楽しかったし、それと同じくらいとても嬉しかったの。今日誘ってくれたのもそうだけれど、私のことを考えてくれたんでしょう?」

「それはまぁ、俺がしたかったことだから」

「だからそれは、私からのささやかな気持ち。いつか大切にしたいと思えた写真に出会えたら、使ってくれると嬉しいわ」

「冬木さん……」



 改めて手に持ったフォトフレームへ視線を落とす。

 冬木さんがお礼としてくれたのは店で見掛けた内の、晴人が密かに良いなと思っていた額縁が木製のものだった。

 木製らしいさらさらとした手触りで自然的。写真を入れて飾ったとしても主張し過ぎないであろうそれは、シンプルながらも洗練されているような気がした。


 お礼、と言う彼女の想いが込められた贈り物。こんな真っ直ぐで柔和な瞳をされてしまったら断れる訳が無い。


 やや気恥ずかしく感じてしまい、晴人は指で頬を掻いてしまうも……それ以上に嬉しかった。



「ありがとう。大事にする」

「どういたしまして。こちらこそ、ずっと大切にするわ」



 真面目だからこそ、冬木さんなりにとても緊張していたのだろう。彼女はほっと安心したかのように小さく息を吐いたのち、目をそっと細めた。






















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これで白雪姫とのお出掛け編は終了です!(/・ω・)/

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