第7話 最新にして原始的

――銃



 銃の研究は王都で一部の研究者、主に錬金術士が行っている。

 私自身も議員になる前は研究所の研究員としての側面があったため、銃に関する知識を得ていた。


 さて、この銃だが、研究と言ってもほとんど趣味の域を出ていないのが現状だ。

 ヴァンナス国だけではなく、世界『スカルペル』に存在するあらゆる国家が魔力を使用する魔導技術を中核に置いている。

 そのため、わざわざ火薬を用いる武器の製造に乗り出す必要性がない。

 

 もし、行おうとすれば、今ある魔導兵器の見直しが始まる。

 しかしながら威力もコストも魔導兵器の方が遥かに効率が良く、元より火薬兵器の居場所はない。

 さらには、魔導士たちの利権や立場もあるため、繰り返しになるが錬金術士の一部が趣味の延長上で研究しているだけだ。


 だが銃は、私のように剣も魔法も不得手な人間にはもってこいの武器。

 安価で大量生産が可能になれば、剣や魔法にとって代わる可能性を秘めている……。


 

「ふむ、しかし……」


 もう一度、箱の中にあった銃を確認する。

「錆がまったくない。あの奇妙な箱のせいか? もし、本当に『あの古代人』たちの遺跡からの発掘品ならば、何故、彼らが? 彼らから見れば、このような物は原始的な武器にすぎないはず……」


 

 私の知る限り、彼らはもっと強力な兵器を用いることのできる存在。

 それが銃などという、我々でも作れる兵器を使用するはずがない。

 ならば、この銃は現代の誰かが趣味で作ったものか?

 いや、それは違うだろう。



「この箱に使われている材質……明らかに我々の技術の先を行っている。千年の時を越えて、銃を色褪せることなくこの時代まで繋げた。想像を絶する技術だ」


 千年前に存在したと言われる古代人――たかだか千年前に存在した種族でありながら古代などという大層な言葉が付く存在。

 その理由を知る者は少ない。

 だが、私は知っている。彼らがなぜ、古代人などという呼ばれ方をするのか。


 それは、彼らと我々の間に大きな隔たりがあるからだ。

 その隔たりが、現在と過去――彼らと今を切り離す言葉となって表されているのだろう。



 さらに深く銃を見つめ、否定を繰り返す。

「これが彼らの武器? そんなはずはない」

 私は研究員時代に彼らの知識の一部を得ている。

 だからこそ、銃などという原始的な武器を用いるような者たちではないと断言できる。


 しかし、我々には作れない箱と錆び付いていない銃が現実にある。


「ふぅ、わからん。考古学や兵器研究は専門外だしな。一部は私の専門と被るが……しかし、もし本当にこれが古城トーワ領内の荒れ地にあるという、古代遺跡から発掘されたものならば、その遺跡は……」


 一度、遥か西にある王都に視線を振って、遺跡が眠る北東へ向ける。


「ヴァンナス国は把握していないのか? していれば、発掘しているはず。いや、汚染されているという話を聞いていたな。……はぁ、仕方ない。面倒で放置していたがトーワのことを詳しく知るため、戻り次第、書類にしっかり目を通しておくか」

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