〇五
ああ、この季節になると思い出す。
出会いあれば別れあり。人はそれを幾度も繰り返して前進する。
会うは別れの始め。…そうなのかも知れない。
比較的に充実していた日々、ラッシュ・ライフも過ぎ去った。
その後の寂しさに包まれる未来に、また退屈な日々は戻されるのだった。
…何の目的もない毎日を、である。
他人に相談すれば些細な問題と笑われるかも知れない。
…そんなことは未来が一番よくわかっている。けれども、彼にしてみればやはり大問題である。
彼にとって退屈なこと程いやなことはなかった。まるで胸を締め付けられるような、いや窒息するような苦しさである。他のどんな苦しさよりも、その苦しさは耐えられないくらいのものだった。
未だかつてなかった苦しさだけに、このままでいると気が狂いそうだった。それを何とかしようと色々と考えてきたのだが、考えれば考える程、頭の中がグチャグチャに入り乱れて、何が何だかわからなくなるのであった。
そうなれば、他人に相談しようと思っても、どう言えばいいのか…わからない。
こんなこと…生まれて初めてのことだった。
とにかく退屈なことは、彼にとって悩める大問題である。なす術なく精神的に追い詰められていた。
…追い詰められたあげく、無気力になってきて、どうにでもなれと思うようになっていたのである。
そんなある日、暗い部屋の真ん中で、まるで死人のように大の字になって横になっている未来の前に、あの妙子が姿を現したのである。ある謎を秘めたまま…。いや、今はそれどころではなかった。
妙子は、未来のその姿を見て「川合君、ど、どうしたの」と、驚いて声を上げた。
「や、やあ…」と、未来は少し微笑みながら、力なく妙子に声をかけた。
どうやら未来は、食事も喉を通らなかったらしい。ここ三日間、ろくに食べてなかったようだ。
「今、何か作るね」と、妙子はすぐに台所に向かった。
妙子には謎が残されていた。…ここ一ヶ月、彼女がどんな暮らしをしてきたかは全くの謎である。
この時、無気力になったはずの未来は、自分の心が揺れ動くのを感じた。
それが何かわからないけれども…。
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