故郷ルイン

 目の前には生まれ育った私の故郷が広がっていた。出てきた家を見てみると、酷く焼け焦がれた後があり、骨組みもボロボロになっていた。傍から見ると明らかに違和感のある出現の仕方だっただろう。怪しまれると怖いので、私もさりげなくにマルセイたちの方へ向かった。

「大丈夫なのかい?こんな公に出るような真似して」

「きっと私まで覚えてる人少ないわよ。宴には一度も参加しなかったし、城の近くにも寄らなかった。それに近隣の人はほとんど死んじゃってるから……」

「あ、そ…そうか。すまない。こんな事」

「いや、いいのよ」

マルセイが慌てて取り繕う。

「ふふ、愚問だったな。マルセイ」

「くっ……お前は黙ってろ」

フォクスは誰にでもからかうような態度のようだ。とてもさっきまで異様なオーラを出していたとは思えない。

「ところで今どこに向かってるの?」

マルセイがきょとんとした顔で私を見た。

「いや王室だけど……」

……ん?

「え、何て?」

「謁見。王様に会いに行くんだ。言わなかったか?」

「言ってないわよ!」

何か勝手に話が進んでるんだけど……!寝てたから?寝てたのがいけなかった?

「あれ……。しっかり言った筈だったけど」

「まあ聞いてないのだろう?『疲れてる』らしいからな。」

くっ、こればっかりは何も言えない……。

「流石に王様は私の顔ぐらい覚えてるわよ?どうやってやり過ごすの」

「どうって言っても付いてきたのは君だしなあ」

薄情な奴等ね……。

「いいじゃないか。マルセイ。そのお気に入りの服を貸してやったらどうだ?」

マルセイは顔をしかめた。確かにマルセイがあの服を誰かに貸したとこは一回も見たことがない。お気に入りだったのね。あれ、じゃあずっとあの服……?

「代えの服ぐらいあるよ。ほら」

「ん、ありがとう」

何も言ってない筈なのに。まるで前にも言われたことがあるような感じね…。

「ほら、早く着てくれ。そろそろ人の目につくぞ」

マルセイが急かすように言う。その後ろには高くそびえる城が悠々と存在した。


 王室には簡単に入ることが出来た。マルセイが兵に一声かけると、兵隊はしっかり確認を取ってからオーケーサインを出すのだ。未だに英雄の名は知れ渡ってるのだと痛感する。それが良い意味であればどれ程良いことだっただろうか。

「……来たか。英雄の仲間、いや『元』仲間と言うべきか」

玉座の間に入るのは二回目だけど、やはり空気感が違う。どこか皆暗い顔をしていて、王様もいつもより顔をしかめている。

「はい。英雄ディスペアが、この故郷を裏切ったと言う噂を聞き、詳しい話を聞きに来た所存でございます」

ああなるほど。評価を聞きに来たの。確かにこれで今どんな状況かよく分かるものね。

「……奴はこの国を裏切った。一人の女を連れてな。民たちは怒った。英雄のあるべき姿ではない、とな。しかしこちらも噂なのだが、かの英雄は捕まったようではないか。それもアーダンでな」

近衛兵や見張りの兵が戸惑い、ざわめく。どうやらその噂は出て日が浅いようだ。

「アーダンとは今にらみ合いの対立状況であるとこを知っておるな?」

「はい。領土を不法侵入するアーダン国民を旅の途中見かけました」

「しかしアーダンは偉大なる産業国家だからという理由で戦争は免れていた。しかし今我が国の英雄ディスペアが捕まったとあればどうだ!瞬時に関係が崩れ去る事も有り得るのだぞ……!」

ざわめきが大きくなる。中には罵倒を小声ではく声も聞こえた。

「ではこうしましょう!」

それらの雑音を一切切り捨てる様な大きな声でマルセイはそう言った。

「王様。大事な話があります。これは所謂国家機密。王様以外は去っていただきたい」

「……無茶な事を言うでない。裏切り者の仲間を信用すると?」

マルセイは折角着直した服をまた脱ぎ、そして何もないことを証明して見せた。

「……わかった。そうであればそこの奥の二人も今すぐ去れ。それで安心できる」

私とフォクスは顔を見られぬよう部屋を去った。その途中、フォクスは私にこう呟いた。


「その内部屋の中が騒ぎ始める。その時までしっかり準備をしておけ」


 




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