妖美容師雨夜の旅

ジュニユキ

プロローグ

プロローグ

「僕が旅をしているのはね……」



青年の前にあるチリチリと燃える焚き火の火が、少し揺れる。



「僕が旅をするのは?」



青年の左横にある椅子の形に似た石が音を発し、おうむ返し。



「感じるためかな」


「感じるため?」


「そう。気持ちいいことや気持ちのよくないこと。嬉しいことや嬉しくないこと。辛いことや苦しいって思うことを、たくさん感じたいからかな」



青年は少しお尻の位置を変える。



「へえ、そうなんだ」


「自分から聞いておいてその返事はあまりにもそっけないよ」


「そうかもしれないね。それはそうと雨夜」



雨夜と呼ばれた青年は、何々? とその石には目を向けず焚き火を眺める。



「そういった気持ちは全部、旅をしなくても感じることのできることなんじゃないの?」


「そうかもしれないね、余石」



雨夜という青年は余石という石に返事をする。



「でもね、自分の目、耳、口、手足や感覚で感じたいんだ。その場所に留まっても感じるものはあるのかもしれないけど、僕は旅をして、それぞれの場所で色々なことを感じたい。そう思うんだ」


「そっか、雨夜がそうしたいなら仕方がないね」



余石と呼ばれた石の椅子は、そう答えた。



「それと、色々な人に会いたいとも思う」


「雨夜がそう思うんだったらそうだよ、きっと」



そういうと雨夜という青年は目を瞑り、微笑を浮かべた。

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