第18話 転生者

「コウスケ、ミト。他の奴らと先に帰還しろ!」


「腰がぬけたっす。」


「おれはキールさんを手伝います。」


最初に訪れた空間で見た、真っ赤な文字で表示された項目を思い出す。

こいつは、このままにしておいてはいけない様な気がした。


『ニホンジン?』


顔の周りの、分厚そうなぶよぶよとした皮がグニャリと歪む。最初、それが発した声だと認識できなかった。


「……言葉を話す魔獣なんか聞いたことねえぞ。おいミト!ふざけてんじゃねえ!」


長く遺跡に関わってきたキールは、ここに来て経験のない事態に直面し、動揺する。魔物から目を離さない様にしながら、近くの冒険者にミトを起こすように指示した。


『ニホンジン?ニホンジン?ニホンジン?……オイシイノ?』


裂けた口がさらに広がり、ずらりと不揃いな歯の並ぶ、真っ赤な口内除く。

今すぐここを去りたいと思った。

さっきのステータスと言い、同じ転生者であることは間違いない様だ。しかし見るからに正気ではなく、話が通じるとも思えない。



スッ……と何の前触れもなく魔物が姿を消した。


後ろだ!というキールの警告が聞こえたと同時に、おれたちの背後に魔物が姿を現す。1番後ろに居た冒険者が声に反応し、慌てて剣を構え直した。

魔物がふっとあげた前足を、その冒険者に振り下ろす。

ぐしゃりと肉が潰れる音がした。


周りの冒険者が一斉に、魔物とは反対方向に走り出したのが見えた。

冒険者の行動として、それが正解であり、ここに残っているのは判断の遅れた間抜けである。

魔物がさらに近くの冒険者に向けて這い寄ろうと身を掲げた。しかし、みしっ。と音がしてそれが何かに妨害される。

地面から伸びた、淡く光る縄の様なものが、魔物を締め上げている。

魔物が恨めしく睨む先には、置いて行かれたミトと、その前に立つおさげの女性が居た。


「でかした、シルヴィア」


魔物はすぐに拘束を振り払い、勢いでシルヴィアたちを弾き飛ばした。

しかし、すでにキールは追加で鞄から取り出した2本のナイフを投擲しており、一瞬動きを止めた魔物へ、ドス。ドス。と鈍い音を立てて突き刺さる。少し離れた場所に最初に投げたナイフが刺さってるのも見えた。


「ちっ。毒は効いてねえな。」


ナイフを投げると同時に走り出していたキールは、魔物に肉薄する。

おれは慌てて再度表示させたステータス画面に能力を使った。

カチリと頭の中で音がし、表示が修正されていく。


魔物の姿が一瞬揺れた様な気がした。

刺さっていたナイフがカラリと地面に落ちる。


「キール!駄目だ、そっちじゃない!」


キールが振り切ったナイフは、虚空を切り裂いた。

音もなく後ろに二匹目の魔物が現れる。

キールはすぐに体制を立て直し、振り向き様にナイフを振るうが、横薙ぎされた魔物の腕によって、その場から吹き飛ばされた。



コウダ カオリ


【種族】

スプラッタ・ホース


【スキル】

毒耐性

写見

気配遮断

空間魔法

昇華


【ステータス】

不浄



キースが切り裂いた一匹目の魔物が、ゆらりと揺れ消えていく。


『アハッ。アハハハハハハハ……!』


地面に転がるキールの姿見て、魔物は気味悪く笑い声を上げた。

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