第4話 お披露目

「俺は、クゼ イッセイ。都内の病院で医師をしていた。」


上質なスーツに身を包んだ男は、後ろに撫で付けた白髪の混ざる髪と、少し先の尖った特徴的な耳をしている。話す印象に比べ顔は若く、どこか年齢不詳である。外から入ってきた時から手をポケットに入れては出してを繰り返しており、少し落ち着きがない。

ここは荷を積んだ幌馬車の中だった様で、今は休憩の為に停車している。

イッセイは情報収集のため他の馬車に乗っていて、俺が目を覚ましたと聞いて戻ってきたらしい。


「わたしはミヤノ アカネ、高3よ。

イッセイさん、タバコは見つからなかったみたいね。」


年上と思われる彼へ茶化すように声をかける女の子は、肩にかかる長さの艶やかな黒髪に、学校の制服と思われる紺のブレザーを着ている。

イッセイが貰ってきてくれた木のみの入ったパンを齧りながらお互いの自己紹介をする。


「あ、年上だったんだ。てっきり同じくらいかと……

まあいいよね。それよりコウスケは日本人よね、もしかして私達と同じ……昨日この世界に?」


3つ上だと分かったところで対応を変えるつもりは無いらしく、アカネは質問を重ねた。

2人とも俺と同じ境遇らしく、例のあの場所からこの世界に飛ばされてきたようだ。そしてその日のうちに街道にたどり着き、運良くそこに通りかかった隊商に救助されたらしい。

そこでやはりというかスキルの話になる。


「何か火を使う能力だと思うんだけど……」


彼女はそう言いって、手のひらを上に向けたかと思うと、そこに真っ赤にきらめく炎を出現させた。

突然の出来事にギョッとする。


「ふふ、大丈夫よ。これ熱くないの」


もう片方の手を炎の中に入れひらひらと見せてくれる。狭い室内で色を濃くした影が、生き物の様にゆらりと揺れた。悪戯が成功したとばかりに微笑む彼女の、炎に照らされたその横顔は、表情とは裏腹に、血の通ってない作り物のようでぞわりとした。


「俺の方はまだ何もヒント無しだ。元の世界より体が良く動く気がするが……気分が高ぶってそう感じてるいるだけの気もする」


「異世界と思った時はキターッと思ったのになあ、どういうことよこれ。」


彼女は怒りを込めて握りつぶす様にしながら、炎をかき消す。

ぼんやりしていた俺は、はっと我にかえった。

そして、無効よ無効、やり直しを要求する!などと憤慨している彼女を宥め、自分のスキルについて切り出した……




「なんでそれを、早く、言わないの、よ!!」


彼女の顔が鼻先まで近づく。彼女の生きた香りが鼻をくすぐる。

俺は、肩を掴んでぐらんぐらんとゆすってくる彼女の手を剥がしながら、自分のスキルを知った時のことを思い出して、申し訳ないと苦笑するしかなかった。

そもそも他人のステータスが閲覧できるのか、という気掛かりもあったが、見せてもらうまでもなく、相手に集中するだけで、それが可能であることが分かった。

これもスキルの恩恵らしく、アカネたちは互いに見せ合うことでしか出来ないようで、「なんかいやらしい」と睨まれてしまった。

あまり無許可で他人に使用しない方が良さそうだ。



クゼ イッセイ


【種族】

ハーフエルフ:魔力操作適性(大)。


【スキル】

身体強化:身体能力+補正。

毒生成(1):体内での毒成分の生成、使用。


ハーフというだけ、そこまで身体的な変化はないらしく、耳についても言われて気づいた様だ。しかし49だという彼は実年齢より幾分若く見えた。

彼はフニフニと自分の耳の感触を確かめながら、修復されたステータス画面に向かって眉をひそめる。

無理もない、毒生成なんて物騒なスキルを持ってしまったのだ。

しかし彼は、ふと顔をあげたかと思うとニヤリと口角をあげ、何やら深く考え始めた。


なぜそこで嬉しそうにするのか……人がもつような能力じゃないと思うのだけれど。

ニヤニヤとしている男を不気味に思いながら、次はアカネの方にとりかかる。


ミヤノ アカネ


【種族】

******


【スキル】

******



よく2人とも種族に触れたなと呆れつつ、羨ましく思う。

アカネがキラキラと期待した眼差しを向けてくる。

俺は彼女のステータスボードに触れ集中した……頭の中でカチリと音がする。



ミヤノ アカネ


【種族】

吸血鬼:魔力(大)。日光により消滅。


【スキル】

不死鳥の加護:浄化、癒し。不死。



沈黙が流れる。

ステータス画面を覗く彼女の表情は見えない。

先ほど見た、炎に照らされた彼女の横顔が脳裏に浮かんだ。

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