スキル振りを間違えました。やり直しは出来ますか。

月見うどん

一章

第1話 例の空間

気がつくと、何処までも平面が続く、白い床以外に何もない場所にポツンと佇んでいた。

周囲を見渡すと、薄暗いなかで、スポットライトをあてられたかのように切り取られた空間が、ぽつぽつとまばらに並んでおり、その中のひとつに自分は居るようだ。

ふと、少し離れた場所のそれに人の気配を感じた気がして、注意して見ようとした時、見えない壁があるかのように何かに阻まれ、ようやく自分がこの2メートルほどの円の中に閉じ込められていることに気がついた。


「なんだこれ……」


見えない壁を叩こうとしてみるが、音も衝撃もなく、その実感のない感触に焦りが込み上げてくる。

先ほど人の気配を感じた方に視線をやると、スーツを着た男性の後ろ姿が見え、声を上げてみるが、伝わった様子はない。


なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……

確かコンビニのバイト帰りで、そして……?

曖昧になる記憶。

顔が、体が熱い。鼓動が激しくなり、じわりと全身に嫌な汗が滲む。どうにか頭を働かせようとするが、いいようのない不安が込み上げてきて、思考を邪魔する。



「センタクセヨ、チカラヲウケトリ、アタラシイセカイデイキヨ」


暴れて、喚いて、しばらくパニクった後、荒ぶった呼吸を落ち着けようとしていると、声が聞こえた。

その声は無機質で、そして頭の中に直接聞こえるようだった。


ちから?生きる?


疑問に思っていると、突然、目の前に半透明のモニターが浮かび上がる。


これは……



その瞬間、この、今の状況を把握した。

先程とは違う理由で顔が熱くなるのを感じる。


異世界転生……


ちからを受けとれと言っていた。

つまり、これは、例のボーナスステージ……


何度も、何度も、何度も妄想し、夢にみた場面。

どのような経緯でここに来たのか、そんな事は全て放り投げ、俺は興奮した。

キタ、キタ、キタ、きた!!


勢いよくそのモニターにかぶりつき、目を通して行く……そして……目を通して……



頭の中を、本日何度目かの混乱が襲う。

期待していたものが書かれていない。いや、書かれている、はず……

慌てて顔を上げると、先ほど見かけた男性と目が合い、その狼狽した様子から、何となく同じ状況なのだと認識した。


読めない……


難しい言葉で書かれているとか、読めない言語で書かれているとか、そういことではない……何となく見覚えのある規則性のない文字の羅列……



こいつ、文字化けしてる!!?


おれは、モニターに向かって突っ伏した。

しかし、強く打ったはずの頭は、やはり実感のない感触しかなかった。





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